
その日の僕は運が良かった。
僕が初めてあの人と出会ったのは故郷の森の中だった。
雨上がりで空気の澄んだ心地良い日だった。
その日僕は見張り番をしていて、そこにあの人達が通りかかったのだ。
僕は侵入者を追い払うために弓を構えた。どうせなら一番強そうな奴を仕留めようと、白い外套に大きな斧を携えた背の高い男に目をつけた。
僕は誰よりも強い戦士で、最優の狩人で、必中の射手で、たとえ目を瞑っていてもあんなに的の大きい獲物を逃した事などなかった。

結果的に僕は敗北し、逃げ出した。
弓を引き絞り、狙いを定めた瞬間あの人と目が合ってしまったのだ。
避けるまでもなく勝手に外れた矢を見てから、あの人はまっすぐにこちらへ向かってきた。
既に立場は逆転していた。あの人は狩る側、僕が狩られる側だ。
いくら僕がこの森を熟知していようともお構いなし。あの人は遮蔽物障害物を薙ぎ倒し、僕の知る森そのものを破壊しながら突き進んで来るのだから。
不注意で木の根に蹴躓いて転び、投げられた斧が背中を掠めて目の前の岩に深々とめり込むのを見た。
恐怖と痛みで判断力を失った僕は崖沿いへ進み、雨でぬかるんだ道で足を滑らせた。
この谷は底なしで、死者の国へ直接通じていると言われていた。
だが僕はまだ死ぬべき運命ではなかったらしい。
死んだと思ったし実際死ぬほど痛かったが、僕は崖の途中に出っ張った岩に引っかかってまだ生きていた。
崖上からこちらを覗き込むあの人の姿が見えたが、すぐに引っ込んだ。
流石にここまでは追いかけては来られないと安堵したのも束の間、あの人はその場で木を切り倒して崖から蹴落とし、逃げ場のない僕を岩ごと谷底へ叩き落とした。
感動すら覚えた。
ここまでするのかと。
それでも僕はまだ死んでいなかった。
目を覚ましたら森の外の河原へ流れ着いていた。どうやら死者の国はまだ遠かったようだ。
谷を流れる川に落ちたものの、一緒に落ちた木に引っ掛かり水底に沈まずにここまで来たようだった。
あちこち折れている感覚はあったが、痛みはもう感じなくなっていた。おかげでどうにか脚は動かせた。
ここが森の外の村の近くだと気付いて歩き出した。あの人がそこで休憩しているかも知れない。
仕返しがしたいのかとどめを刺して欲しいのか自分でもよくわからなかったが、とにかく僕はあの人に近付きたかった。
あの人はそこにいて、僕を見ると少し驚いた顔をしていた。
そうか、こんな顔もするのか。
言葉を交わして、声を聞いた。
僕はまだこの人の事を何も知らない。
なんだか何も知らないまま死ぬのが惜しくなってきて、僕は同行を願い出た。
案の定叩き殺されそうになったが、まあそれでもよかった。
僕は僕の生き死にをあの人に決めて欲しかったのだ。

それを止めたのがあの白い女だった。
あの人は彼女を『聖女サマ』と呼んだが、本人は嫌がっているように見えた。嫌がるからこそ面白がってそう呼んでいる様子だった。
でも結局あの人は僕を殺さず、旅への同行を許した。
その日の僕は運が良かった。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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エディアン 「・・・おや。チェックポイントによる新たな影響があるようですねぇ。」 |
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エディアン 「今度のは・・・・・割と分かりやすい?そういうことよね、多分。」 |
映し出される言葉を見て、腕を組む。
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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エディアン 「あら!梅楽園の、カオリちゃんとカグハちゃん?いらっしゃい!」 |
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カグハ 「おじゃまさまー。」 |
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カオリ 「へぇー、アンジニティの案内人さんやっぱり美人さん!」 |
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エディアン 「あ、ありがとー。褒めても何も出ませんよー?」 |
少し照れ臭そうにするエディアン。
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エディアン 「間接的だけど、お団子見ましたよ。美味しそうねぇあれ!」 |
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カオリ 「あー、チャットじゃなくて持ってくれば良かったー!」 |
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カグハ 「でも、危ないから・・・」 |
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エディアン 「えぇ、危ないからいいですよ。私が今度お邪魔しますから!」 |
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エディアン 「お団子、どうやって作ってるんです?」 |
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カオリ 「異能だよー!!私があれをこうすると具を作れてー。」 |
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カグハ 「お団子は私。」 |
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カオリ 「サイキョーコンビなのですっ!!」 |
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カグハ 「なのです。」 |
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エディアン 「すごーい・・・・・料理系の異能って便利そうねぇ。」 |
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カオリ 「お姉さんはどんな能力なの?」 |
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エディアン 「私は・・・アンジニティにいるだけあって、結構危ない能力・・・・・かなー。」 |
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カグハ 「危ない・・・・・」 |
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カオリ 「そっか、お姉さんアンジニティだもんね。なんか、そんな感じしないけど。」 |
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エディアン 「こう見えて凶悪なんですよぉー??ゲヘヘヘヘ・・・」 |
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カオリ 「それじゃ!梅楽園で待ってるねー!!」 |
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カグハ 「お姉さん用のスペシャルお団子、用意しとく。」 |
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エディアン 「わぁうれしい!!絶対行きますねーっ!!!!」 |
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エディアン 「ここじゃ甘いものなんて滅多に食べれなさそうだものねっ」 |
チャットが閉じられる――