
近くのカフェまで移動し、
4人席へと向かうと、
席は個別の椅子とソファー席に分かれており、
ソファー席の中央に座る映美莉。
こうすれば二人は対面の椅子にすわると思っての判断だったが――
当たり前のように二人は映美莉の左右を陣取り座る。
逃げ場を奪われる事になった映美莉は――
「――すまない、レディ達。
流石に狭いし、
喋りづらくはないか?
折角対面があいているのだし、
向かい側に二人座るというのはどうだろうか。
或いは我が対面に移動するのも手ではあるが……
どうだろう?」
何事もなかったかのように、
さらりと二人を移動するか、
この状況を抜け出すよう提案するが……
「いえ、私はここでいいです。
途中で帰られたりしたら嫌ですし、
今日はじっくりとお話を聞きたいですし……
いいですよね?」
断固として譲らず、
一歩も引かない葵。
そして――
「そういう事ですので、
こちらとしても引く気は毛頭ございませんわ。
それにゆっくり話すのに、
この間のように去られてしまうのはとてもとても心苦しいものですもの。
だから、
そうされないようにする為にも……
二重の意味で譲る訳にはいきませんわ。
このままでも十分座れておりますし……
ゆっくりお話をいたしましょう?
ああ、そういえば申し遅れました。
よくよく考えてみればまだ名乗ってすらおりませんでしたわね。
シンシア=アークエットと申しますわ。
シンシアとお呼びください。
以後お見知りおきを。」
金髪の彼女――シンシアもまた葵に譲る気はないらしい。
すなわち、
ここに映美莉が逃れられぬことは確定したこととなる。
映美莉はとても大切なものを忘れてしまったのである。
逃げる機会……
そうこういう状況になるのを避ける為に必要なもの全てを忘れてしまった……
そういえるだろう。
「……それで、あー。
うん。
我は社 映美莉。
映美莉でもえみりんでも、
好きに呼んでくれ。
君のような美しいレディによばれるなら、
どのように呼ばれても光栄だとも。」
微妙に葵からの圧が強くなった気がしたが、
気のせいだと自分に言い聞かせて流す映美莉。
両手に花というのは実にすばらしく、
嬉しい事態であるはずなのだが、
なぜだろうか、
それ以上に冷や汗や嫌な予感がとまらないというのは、
かくも不思議な事があるものだといわんばかりの事態に、
思わず目頭を押さえる映美莉。
しかし、
ここでくじけてはいけないと、
気を取り直しつつシンシアの方をみると嬉しそうに、
「――なるほど、
映美莉様とおっしゃるのですね。
では……
そうですわね、
普段なら様付でお呼びしたほうが良いと思うのですが……
映美莉と呼び捨てにさせていただきますわ。
その方が親しみもありますし、
ぐっと距離が縮まった気がいたしますもの。
そうは思いませんか?映美莉?」
そうして身を寄せてくるシンシアに、
思わず鉄面皮が崩れそうになる映美莉。
「そうだね、
確かにその通りだ。
我もシンシアと呼ばせてもらうとしよう。
それで――」
「あら、シンシアさん。
映美莉は優しくて女性を大切にする人だから許してくださいましたけど、
ちょっと距離を詰めすぎではないでしょうか?
もう少し節度をもたれては?」
続けてシンシアの話を聞こうとすると、
葵が会話に割って入った。
どことなく棘が感じられ、
思わず映美莉が葵の方をみると、
ものすごくにこやかで綺麗な笑顔をしていた。
……目は笑っていなかったが。
そして、反対側をちらっとみると、
やはり同じような笑顔のシンシアの姿。
そして――
「あら、
身命を賭して私を助けてくださった方に対して、
最大限の礼をもって尽くすのは当然じゃありませんか。
親しくしてくれようというお方ですもの。
この場合の礼儀としての提案としてふさわしいものでなくって?
それにどうして、そんなに人の交友関係に関して口を出すのでしょう?
付き合ってはいないとおっしゃっていたではありませんか。
あれは嘘だったんですの?
それとも、何か別の理由がおありなのかしら?
他人の交友関係を口だす理由が。」
「――私と映美莉が親友だからというのでは不十分でしょうか?
貴女の事は知らない間ではありませんし、
いい友人だと思いますが……
それはそれ、これはこれです。
映美莉は……
凄く、とてもすごく腹だたしい事ではありますが……
一人の女性だけに対して愛をあたえ続けてくれる人ではありませんし、
それに、シンシアもシンシアです。
惚れっぽくて暴走してるだけですから、
少しは自重したらどうですか、
それで何回失敗してるんです……!」
映美莉を挟んで口論を始める二人。
それにしても、
何か妙な言葉を聞いたような気がする。
葵とシンシアが知り合い……
というか親しい間だという事。
なるほど、
確かにそう考えれば二人が一緒にいたことも納得できるが――
ここは確認してみるるべきだろうと映美莉は呼吸を整え、
一つ息を吐き出すと――
「ちょっとまってくれ。
まさかとは思うが、
二人は以前からの知り合いなのか?
大分親しい……というか、
付き合いが長かったりするのか?
思った以上に二人がお互いの事をよく知ってるみたいで驚いているんだが……
良かったら教えてもらえると嬉しい。」
ここは一歩踏み込むことにした映美莉。
こうやってにらみ合いや言い合いを続けられるより、
二人に二人の事を話してもらうことで、
少しでも和んだ空気が欲しかったのである。
もちろん、こちらに飛び火する可能性が低いのもよいというのもあるが。
この打算たっぷりの提案に対し二人は……
「あまり面白い話でもありませんわよ?」
「それは構わないけど……
特別何かあったわけでもないですよ?」
つまらない話だけど、
それでも聞くの?
といわんばかりに、
映美莉に密着しながら聞いてくる。
「ああ。
我だけ知らないというのも、
こう疎外感というかだな、
仲間外れにされて置いてけぼりにされてるような気分でな。
お互いの事をもっとよく知る為にも、
せっかくだからお願いしたい。
それにまぁ……分からない事は出来るだけ知りたくなる性格でな。」
諦めも早いが。
との言葉は飲みこんで言葉を区切り反応を待つ。
二人はこちらをみた後、
お互いに視線を交わせ、
一つ頷くと、
「「それじゃあ、どちらの話から聞きたい?」」
そう映美莉に返してきた。
こうなる事は少し考えれば分かりそうなことではあるが、
その辺りまでは残念ながら映美莉には思い当たらなかったようだ。
実の所大分余裕をなくしているかから当然といえば当然ではあるが。
思わぬ切り返しに、
思わず言葉が困って少し沈黙が流れるも――
「……そうだな。
うん。
とりあえず、葵の方から話を聞きたい。
何分、
我との付き合いは葵の方が長い訳だし、
出会ったばかりの人間の事を知りたい場合、
良く知る知り合いからの話を聞いた方が筋だろう。
その方がシンシアの事をもっとよく知れると思うし、
シンシアの話の方もより楽しくきけると思うからね。」
さほど時間をおかずして、
こう切り返せるのは流石、
といった所だろうか。
この返答に対し、
葵は満足そうに頷き、
シンシアは残念そうにはしながらも、
納得いったのか、
仕方ないとばかりに、
「――そう、ですわね。
それなら、まずは葵にお任せしますわ。
自分の事を自分で語るよりも、
自分の事を知ってもらうには葵からの方が信憑性があるのは確かですし。
――でも、よろしくて?
きちんと私情を交えず話すのですよ?
意図的に悪く離されるのは気分を害しますもの。」
分かってるわね?
といわんばかりに、
少しジト目になって葵をみるシンシアに少し苦笑しながら、
「ちゃんと見たそのままの事実を離すから大丈夫。
そんなに警戒しないでも、
わざと嫌われるような話はしない。
――どうせこうなった以上、
結果的になるようにしかならないのは私も分かってるもの。
とはいっても……
実際あった貴女のミスや変な事についてのフォローもしませんけどね。」
そう告げる葵に、
痛い所をつかれたとでもいうかのように、
うっと視線を逸らすシンシア。
「――しょうがありませんわね。
その辺りは私の自己責任ですもの。
気にする事はありません。
告げてもらっても大丈夫です、が……
……
くっ、本当に何を言われるか分からなくて少し怖いですわね。」
素直にちゃんといわれると受け止めて文句がない所をみるに、
葵がそういう人間ではないのはよく知っていると同時に、
歯に衣着せぬ所もあるのもよく知っているようだ。
それたけ長い付き合いなのだろう。
「――とりあえず、
凄く親しい間柄なのはこれだけでもよく分かった。
それじゃあ……
話を聞かせてもらうとしようか。
と、その前に注文をしないとな。
我は……コーヒーとホットケーキでもつまもうかな。」
しかし、場の空気が弛緩し、
落ち着ける状況になったのは確か。
すかさずもしもの時に備え、
心を落ち着ける飲み物と食べ物を注文しようとする映美莉。
その発言を聞いて……
「それじゃあ、私は紅茶とショートケーキを。」
「そうですわね……
私は……やはり紅茶とモンブランでも頂きますわ。」
二人も注文を決めたようなので、
店員を呼び、
二人の分も注文を終える映美莉。
「さて、それじゃ、ゆっくり話を聞くとしようか。」
そして、
ゆるりと姿勢を映美莉が正した所で、
葵の話が始まった。
「といっても、初めてシンシアと出会ったのは、
大学に入ってすぐ位の事なので、
いうほど長いかといわれると微妙なのですが……
まぁ、出会った当初は……
なぜか挑戦されまして。」
いきなり出会いというにはすごく不自然な単語が出た気がして、
ぎょっと葵を見、
その後シンシアをみる映美莉。
「挑戦……?
一体何が……?」
思わず恐る恐るそう聞き返してしまったのも致し方ない事だと思う。
ちなみにシンシアに視線を合わせようとしたとき、
顔を真っ赤にして視線を逸らされた事を考えるに、
シンシア本人としてはなかった事にしたい話のようだ。
とはいえ、気になるのも事実だし、
聞き返してしまった以上葵を止める事はもはや不可能で……
「その……どうやら人違いされたようで……
しかも、挑戦しようと思った理由も……」
「……うう、私の勘違い、でございますわ。
……そういえば、その時が初めてでしたわね。
すっかり忘れておりましたけど。
私としてはその次に優雅にお茶をお誘いした時が初めてになっておりましたわ……
そういえば、あれはお詫びでしたわね……」
さっ、と補足を入れるシンシア。
あまりにも恥ずかしい記憶の為、
きっちり自分で言う辺り、
反省はきっちりしているのだろう。
その辺りは流石といわざるを得ない。
「なるほど……
しかし、なんというか、
お互い災難だったな……」
挑戦された葵ももちろん、
盛大なミスをしたシンシアもまた災難だろう。
ミスに直前で気づけないつらさは映美莉も実に良く知っている。
そして、シンシアをじっとみながらどうしようか迷う葵に対し、
シンシアは――
「そこから先は私が話しますわ。
これはきちんと私の口から説明しなければ、
私のプライドが許しませんもの。
その……
私がちょっといいなと思った殿方がおりまして、
その人があの女に付きまとわれて困っていると聞いて、
それが葵の隣にいる人の事だったもので……」
成程、実に分かりやすい展開である。
 |
えみりん 「ネタが、ネタがない!もう、どうしてこうなった!」 |
 |
えみりん 「気づいたらもう日数なくて、日記が真っ白だった件について」 |
 |
えみりん 「……」 |
 |
えみりん 「何かしたいけど、何かする前に一日も終わる……!」 |
 |
えみりん 「……」 |
 |
えみりん 「かくなる上は……次回に続く!」 |
 |
えみりん 「続け……れるのか?」 |