4月1日。俺は誕生日を迎えた。
早生まれだから今年で18歳だ。
18歳ッつーと、エロい本とか動画とか合法で見れるようになるし
選挙も行けるようになる。 酒やタバコは出来なくても大人の扱いだ。
…まァ政治とか俺、全然分かンねェけどソレはともかく
結婚も出来る様になンだよな。
俺の親はお互い19歳で結婚した。
今の俺の一個上。
おふくろが俺を妊娠したって分かってから急いで二人で籍入れて、
お互いの両親に頼りながら俺を育ててたンだと。
たった一年しか変わらねーのに、子供産んで育てたってスゲェよな。
けど、もし俺が家庭を持つなら身の回りがちゃんとしてから結婚したい。
ちゃんと仕事見つけて、ちゃんと稼げるようになって、ちゃんと立派な大人になってから
…いや、その前に結婚する相手っつーか、ちゃんと告白してェっつーか。
まだ付き合ってもねェっつーか。
岬からお祝いが来て浮かれてるみてェだわ。もっとしっかりしないと。
もっとしっかり……
………
………
一面赤い瓦礫の山で目を覚ます。
ああ、ハザマだ。
守護者ッつー鹿の化け物をブッ倒して、伊藤君が辺見を助けに行って。
側にはイーサンがいて、
岬がいる。
三人になっちまった。
おかげでここまで来れてるけど、
イーサンだってずっと付きっきりって訳じゃないだろう。
岬も、誰かが助けを求めてたら行くのかな?
……ッて、ヒーローが心細くなってどうすンだよ!
しっかりしろよ『泥蘇光悪渡・悪漢(ディスコード・バッドガイ)』!!
イーサンに頼りっぱなしじゃ駄目だ。
俺も岬の拠り所になるんだ。
岬が安心して家に帰れる様に、もう倒れたりしない様に支えるンだ。
伊藤君に負けてられねェ。
俺に出来ることは唐揚げ出すだけじゃねェ。声かけて元気付けて戦うことだって出来ンだ。
「イーサン、岬。次の集合地点、地図で確認しようぜ」
マスク越しでも分かるくらいに、明るい笑顔を作って二人に声をかけた。
こんな地獄みてェな場所でも少しでも安心できる様に。
ハザマの生き物やアンジニティだけじゃねェ、不安も恐怖もこの俺がブッ飛ばしてやる。
かかってきやがれッてンだ!!

ラピア。ラピアクチュール。最悪の仕立て服を着せられた最愛の可愛い娘。
俺が不甲斐ないせいで手放しちまった一人娘。
やっと一緒になれたのにヒーローの奴らめ。
何もしてないラピアを酷い目に合わせやがって、何がヒーローだ。
クソッ。
人の娘に手ェ出しやがるなンて、お前らはただのチンピラじゃねェか。
ヒーローを名乗るお前らは
「お酒は控えてね」なんて、父親の身体を気遣う百香の優しさも知らないだろう?
あの子が徹夜で勉強や異能の研究をする努力家だって知らないだろう?
自分の異能でチョコレートだって作るんだ。器用なんだ娘は。
あの子の天使みたいな笑顔を見た事があるか?
チンピラ連中がなにも知らないくせに好き放題しやがって。
どうしてあんな良い子が、最悪の仕立て服を着せられたんだ。
……アレ? 何かが、変だな。
まァ、いいか。全部ヒーローを名乗る連中のせいだ。
全員ブッ潰して連中の居場所も破壊してやる。
そうだ。
XYZ細胞を持つ怪人が“悪”になったのはヒーロー連中が居場所を奪うからだ。
そもそも初めに居場所を奪ったのは旧人類の方じゃ無ェか。
異能がねェからって馬鹿にしやがって。
事故だって起こしたくて起こした訳じゃねェ。
酒だって嫁が死ななきゃ飲まなかった。
それを皆してギャアギャア責め立てやがってクソが。
悪いのはそっちだ。俺は悪くねェ。
そうだ。悪いのは全部旧人類だ。旧人類の肩を持つヒーローは破壊しなくては。
イバラシティの連中をブチのめして、あのお方を復活させなくては。
バットの跡や足跡を確認して歩を進めた。
間違いなく、泥蘇光悪渡・悪漢(アイツ)は近くにいるぞ。
確信した途端、耳障りな音でクロスローズの通信が入る。
夜色の髪のガキ…によく似たガキ。
ああ、そういや連絡したンだった。
警戒されないように人間の皮を被って応答する。
皮を被った俺の口は、表情を貼り付けてスラスラと動いた。
もう自分で話してるのか、別人が俺の口を借りて話してるのか判別がつかない。
話した内容も殆ど覚えがない。
さっき飲んだアルコールが効いたのか。
あー、ひるこ?ガキが世話になった?
ああ、世話してやったンだ。
痩せて身寄りのない
みすぼらしくて意地汚いノロマなガキを俺は世話してた。
世間と家族から切り離されて間がない頃、
ヒノデ公園で生活していた俺は、着の身着のまま残飯を漁って段ボールで掘建て小屋を立てて
公園の隅っこの方でボーッと他所の「家族」の様子を見ていた。
俗に言うホームレスだ。
ひるこに出会ったのもその公園だ。
当時は名前なんか知りゃァしなかったが、
ボーッとした俺をボーッとした目で見てきやがって
正直不気味だった。
ボサボサの絡まった長い髪、木の枝みたいな細い手足が生えて
阿呆のようにこちらを覗き込んでくる見知らぬガキ。
間違いなく幸せな家庭とは無縁だったのだろう。
見せ物じゃないと突っぱねたら、しばらくして戻ってくる。
その目で見られるのが嫌だった。アレの目を覗くのが嫌だった。
何度も罵声を浴びせた。出て行けと怒鳴りつけた。
その筈なのにいつの間にか寝床に居る。
ソイツの意思なのか、自分が連れてきたのかよく覚えていない。
ただ覚えているのは幽霊のような不気味なガキを殴った瞬間、気分が良かったこと。
その瞬間がおぞましかったこと。
そして、いつの間にか自分が殴り倒したガキに、頭を撫でられ泣いていたこと。
惨めだったこと。
それだけだ。
あれからくたばり損なってここに居るが、金輪際クソガキの世話なんてごめんだ。
苛立ちながら追跡を続けていると目的のヒーローを見つけた。
紫のジャケット、金髪のリーゼント。
目立つ格好で叫んでやがる。
『相変わらずの馬鹿だな』
騒ぐな。喚くな。暴れるな。
アイツは、何度怒鳴りつけても聞きやしねェ。クソガキだった。
やれクラスメイトを怪我させただの、窓を椅子で割っただの、机を投げただの
いちいち通ってた小学校から呼び出しも食らって、一ッ言も謝りもしねェ。
母親が死んで間もない頃はまだ素直な方だったが、俺が事故を起こした辺りから変わっちまった。
何を言っても聞かねえ、無視だ。
文句があるのか聞いたところで「なんでもない」だ。
おまけに図体ばっかデカくなりやがって。
ガキっつーのはたった二年で手が付けられなくなるモンなのか?
たかだか10歳11歳のガキに舐められるなンてよ。
何度言い聞かせても変わらねェから、こっちもイライラして手が出ちまうッつーのに
それすら分からねェ。
あんな恨むような目で見やがって。
本当に馬鹿な……
……いや、どうしてだ?
どうして俺はアイツの子供時代を知っている?
俺の
俺の子供は……