さて、ネタバラシをしようと思う。
何の変哲もない、ただの灰闇 眩という人間のネタバラシだ。
特に楽しくもなければ、面白くもない。
まともでなければ、特別でもない。
程々に不幸で、程々に幸福な。
どこにでもそこそこにあるかもしれない、そんな話だ。
不快に思えば、そっとページを閉じればいい。
ただ、それだけの話。
Side:Gen
これは、日記だ。
別に見る人間もいないとは思うんだが、なんとなぁく書いてるものだ。
文字を書くという作業は落ち着くね。
まともそうに見える精神を保つのに便利な作業だ。
唐突なんだけども、俺の親と言えば、大層仲が悪かった。
正直なんで俺を産む原因になったあれやこれやをしたんだ?と思う程度には不仲。
ぶっちゃけどういう流れだったのやら。
俺の人生の最大の謎の一つに数えられるだろう。
ランキング3位くらい。
兎にも角にも、どうしてか不思議なものだが、とりあえず俺は生まれた。
生まれたのはいいんだが、正直なところあまり良い環境とも言えなかった。
経緯が経緯なので、当たり前の事ながら愛されませんよね。
父さんは人を愛さない人だったし、母さんは俺を愛する気はなかったようだった。
俺が下手に父さんに似ているものだから、むしろ嫌悪の対象らしかった。
こればっかりは仕方がない。
感情は理屈じゃないんだし。
ただまぁ、強いて言うのなら、生まれた事は否定しないでほしかったというか、別に俺も好き好んで生まれたわけじゃないんだから、まぁね、判定をね、程々にやさしくしてほしかったですよね。
生まれてきてくれてありがとうと思ってくれなんて望まないからさぁ。
程々に健全で文化的な生活をですね。
一日一食とか、清潔な衣服とか、害されない生活とかをですね。
せめてちょっとほしかったものだったんだけど、なかなかそう都合良くもいかない。
おかげさまでこの年まで肉がなくて不健康に細っこい。
まぁ、仕方ない。
人生そんなもんである。諦めよう。
そんなこんなで肉体や精神共に死なない程度に生きていた俺なんだが、ある日妹が出来た。
え?マジ?って最初は思ったね。
父さんどうやって母さんとあれこれしたんだ?
下世話な話ですが考えずにはいられんね。あんたらすごい仲悪いじゃん、びっくりですよ。
しかも母さんが妹を溺愛し始めたから更にびっくり。
え?俺ってなんなの?なんでそいつだけ?とかさぁ、思ったっちゃ思ったよ。
なんで、俺は、ダメなの?とかさぁ。
こんなこと考えちゃうから母さんは俺のこと嫌いなんだろうな~~。
さもありなんって感じ。自業自得ですね。
うん俺浅はかだから。こういうのは、厚かましいって言うんだろうな。
こういう考え方してるから、あいされないんだろうな。
仕方ない仕方ない。
だからね一生懸命思い込もうとしたんです。
あの可愛い妹を、憎まないように。大事に出来るように。好きになれるように。
"俺は妹が大事だ。"
"お兄ちゃんは妹を守んなきゃいけない。だってお兄ちゃんだもの。"
"これは幸せになってほしい存在だ。"
それが本当になったのっていつからだっけね。
嘘ではないと思うんですよ。
本当にそう思っていたから。
でも、やっぱり、最初が邪な思いだったからさ。
あんな事になっちゃったのかなぁ。
邪念って物事を良い方向に進ませないって言うしさ。
本当、俺がすることすること、良くない方へ進みますね。
どうにかなんないかね、この性分。
あぁ、どんな事になったのかって?
そうだな、ちょっと話は飛ぶんだけど。
人を、だくだくと血を流してしまうくらい、傷つけた事ってある?
ちょっとした事故とかじゃなくってさ、殺しかけたかな?っていうくらい。
相手が流してる血が、自分の血みたいに思えて、さーーって血の気が引いていくの。
ぞっとするっていうか。ぞわっとする。
やっちゃった感がすごいっていうか。
どうしよう、ってまず思うんだけど。
そんなことを初めて体験したのは、妹の夜焚が死んだ時だった。
世間一般的な父親とは少しずれているだろう俺の父親は、子どもを虐めるのが好きだった。
子どもだけじゃなくて、大人を虐めるのも好きなんだろうけど。あの人。
たまにある事だったんだけど、大勢の大人が家に来ていた。
父さんの知り合いとかなんだとかで。
囲まれてよくあれこれされる、なんてことはよくあったんだけど、夜焚にまで手を出されるのはなかなかなかった。
俺が庇っているのもあったんだけど、夜焚は母さんのお気に入りだったから。
俺が何をされてようと、母さんはノータッチだったけど、夜焚が何かされようとしてた場合は別だったんだ。
ただその日は、母さんがいなかった。
起こったことは、シンプルに言えば事故だったんだろう。
父さんの知人は、俺を好き勝手にしようとしていたし、
父さんは、夜焚で遊ぼうとしていたし、
夜焚は、父さんから逃げようとしていたし、
俺は、夜焚を助けようとしていた。
夜焚を守ろうとして、必死に背中に庇って、あいつの手が、俺の服を掴んでたのを覚えてる。
俺の手が、あいつの手を握っていたのに、引き離されてしまったのを覚えてる。
でも、夜焚の悲鳴が聞こえた後は、あんまり覚えてない。
生まれつき、近くにあったその影は、びっくりするくらい鋭く尖って、俺を押さえつけていた男を刺していた。
だくだくと流れる赤い色。
俺の服を濡らす生温い温度。
その人の手とか足が、ぐだっと地面に転がっていた。
それを、正常に理解するのがなんだか恐ろしくて、なんだか腹の底がぞわっとして、逃げるように夜焚の方へ行こうとした。
助けに行こうとしてたはずなのに、夜焚の方へ逃げるなんておかしいね。
夜焚は、だらんとしていた。
父さんが夜焚を抱えてた。
なんか、ぶら下がってる手とかが、変に、さっき俺が血塗れにした人とおんなじくらいぐだっとしてて。
タコみたいだった。
よくわからなかったけれど、ものすごく、ぞっとした。
逆光になっててよく見えなくってさ。
だから余計に。
あ、死んだんだ、って。
わかってしまった時のなんとも言えないあの怖さは、あんまり書きたくないな。
記憶がぼやけてるのは、多分それを理解した時、俺があまり俺でいられなかったからだと思う。
ショックが強かったんですかね。
自分は人を殺したのも、夜焚が死んだのを理解したくなかった。
……俺が刺した人は、結局生きてたらしいけどね。
夜焚は、死んだ。
母さんが帰って来てすごいことになったのは覚えてる。
これもあんまり書きたくないな。まぁ、機会があったら。
目が覚めたら病院で、母さんが俺に言った言葉を思い出したり、父さんどうなったのかなって思ったり、なんで夜焚まもれなかったんだろうって思ったり、なんで俺は夜焚まもれなかったのに生きてるんだろうと思ったり、そんな事をずっとずっとずっと考えてた。
結論は、まぁ、俺が悪いなの一言だった。
そのまま、俺は児童施設行きになって、終わり。
あ、ページなくなってきた。
<NEW!>
スキル:<ネグレクトされた子ども>を取得!
スキル:<自己嫌悪>を取得!
スキル:<歪んだ価値観>を取得!
スキル:<妹への憎悪>
→スキル:<嘘から生まれた妹への愛情>へ変化!
スキル:<人格障害>を取得!
スキル:<罪人>を取得!
スキル:<他人を傷つける快感>を取得!
スキル:<守るものがある幸福>を取得!
→廃棄!
<未取得スキル一覧>
スキル:<育ち直し>
→廃棄!
スキル:<自己肯定>
→廃棄!
スキル:<真っ当な価値観>
→未取得!
スキル:<人格の統合>
→未取得!
スキル:<誰かの赦し>
→×××