いっぱいあったからまとめるのが難しいということで、
こう、色々ありました、でまとめるわけにはいかないだろうか。
神っぽくないからだめだろうか。
別に神っぽくあることに価値はないと思うが、
今、眷属いるからな。
あいつの自覚を呼び起こすためにも、少しくらいは神っぽい振る舞いを心がけるべきだろうか。
ああ、そうだ。眷属に『眷属』としての名前をつけた。
くもよび。
私のもとへ食らう雲を運ぶものとして、存分によく働いてほしいものだ。
──デイきゅんと違うなと思って。
翼のついた露出度の高い十ヶ瀬玲音(レオン・ジオスタという名前らしい、本来は)に言われて、思いのほか「そんなことある?同じのつもりなんだけど?」と衝撃を受けた結果が今の、前よりはややフランク寄りの俺、というわけなのだが、俺にとって自明であっても後の俺にそうでもないことなのかもしれないので、一応、よくよく自分を見つめ直してみようと思う。我が眷属にも伝えた。学び、自覚することが大切だ。
『曇食日』と『くもくいさま』の本質は、何も変化していない。
恐らく、両者が別存在として顔を合わせたとしても、すぐに理解をし合うことだろう。こんなふうに、記憶と人格の統合を定刻ごとに行われたとて、さしたる混乱もないほどに。
両者を大きく分けるとすれば、ヒトからの扱われ方だ。
私/俺とは、望まれた欲の鏡。
神とははじめからそんな風にできているものだし、それをもとに作り上げた男も、人の欲望を反映して育ったが故に、自我が薄い。根底は同じだ。鏡として生きるもの。
だが、ヒトは神を前にして神と認めることができないものらしい。
私/俺を、「ヒト」だと意識して望むこと。「神」と意識して望むこと。それは僅かな自我の違いを生む。例えば、ヒトは神と交わろうとはしないが、ヒト相手ならばその欲を隠さない、とか。
けれども、映し出された像が異なったとして、鏡そのものが形を変えたわけではないのだ。
だからこうして外殻の……口調や振る舞いといった在り方を曇食日寄りへ変えたとしても、私/俺自身が大きく変貌した、というつもりはない。
ない、が。
──本質的には同じものだよ。レオンも知っているだろう。周囲の要求は、俺に大きな意味を持つ、と。
──
デイきゅんだ!
それでいいのか、レオン・ジオスタ。
簡単がすぎないか、レオン・ジオスタ。
同一性を感じる由来がどこにあったかはわからないが、もし口調だとしたら、俺の口調を真似したそのへんの不審者についてったりしそうでちょっと心配だ。十ヶ瀬玲音より世間慣れしてなさそうだし。あっちはあっちで慣れてるつもりの慣れてないやつという風情なので、あんまり変わらないといえば、まあ、そうなのかもしれない。お互いさま。……ほんとかな。
こちらでもお互いに「いちばん」であることは伝えたけれども、宗教観の違いというのか、神がなにかを贔屓する、という感覚にはまだ慣れていないようだった。こちらでは、神はすぐ順位つけるし、嫁だってとるのに。ヒトのいう愛情とは別かもしれないけど、そんなのは曇食日の語る感情が怪しいのと対して違いはない。どちらにしろ、そんな、俺の「いちばん」なんて不必要なものを欲しがる感覚は俺にも理解し難いので、やっぱりお互いさまなのかもしれない。
俺でなくてもよかっただろうに、と、他の全てを含めてそう思う。
哀れで、愚かで、俺に向かってくることは、少しずつ失うことと同義なのに。
ほかのものに目を向けていれば、まだ。
そうであれば、まだもう少し幸福であったろうに。
けれど、
その幸福すらやがて俺は、全てを、無価値に変えるのだから、
レオン・ジオスタが求めたかもしれない他のなにかをも無価値に変え、全てを私と等価とするのだから、
彼のいちばんが俺であったって構わない……はずだ。きっと。
幸福でなくなるのが、早いか、遅いかの違いだけだ。そうだろう?
拝殿がきいきいと音を立てて進んでいく。
遠目から見れば、機械で出来た動く丘、に似たシルエットだろうか。これに攻め込まれる人間のことを思えばやや悪いような気にもなるが、わざわざ複数人でただ歩くだけ、という作業を繰り返すのもバカバカしいのは確かだ。移動する時間を別のことに使えるのなら、面倒をとることもない。
拝殿の構成部品、壊れた機器を組み立て直し、簡易コンロで炊き出しをする少女を眺めた。
ふとめの鳥を模したぬいぐるみが忙しなく手伝っている。
「お神酒にしては俗っぽいなあ……いいのかな……」
まさかその、焼いてるヒレ、ヒレ酒にして寄越すつもりか?
いや、まあ、いいんだけども。神酒に出汁をきかす発想、底知れない。
美味しそうだから、別に、いいんだけども。
塩辛とか、欲しくなってくるな。
ヒトを模していたころの味覚がふいに蘇り、
かといって海鮮もののつまみが急に得られる訳でもないので(私は農耕の神で、海のもののことはしらない)、誤魔化すように別の作業を意識した。そろそろ、あれらも武器を新調してもいい頃合いだ。
2人の娘に似合いの花を贈ろう。
赤く錆びた生命の花と、白く頭をもたげた死の花。
外敵を喰らい尽くした後に咲く花弁は、赤き大地に良く映えるだろう。
「食材ほしいな……」
切実な呟きに、花を一旦置いて、バナナとか稲を生やした。
ハザマで生まれ育った種とは異なるためか戦闘の際の加護は得られないにせよ、腹の足しにはなるだろう。……どうも、ヒトというのは肉体に縛られているぶん、即物的だ。
「なんか生えてるし。まって小麦は?パン欲しいんだけど。」
訂正。神にも即物的なのはいるらしい。なんだこの同盟神。