『微塵も心が動かない人間なんて、それこそ死体くらいしか思いつきませんよ』
思わず手を止める。
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『……』 きょとりと。男は目を瞬いた。 |
──なるほどと、思ったのだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
眼前にいる
ひとの姿をした少年は、そう考えるのかと。
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『……オレの方こそ、お前のこと見習わなきゃいけないのかもしれないね』 穏やかに、そして、すこし苦みを含んだ笑みを浮かべると、カップを口に寄せた。
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故に、この唇は弧を描いて微笑った。おかしかった。
おかしくて、わらうしかなかった。
堪えた唇は、歪に歪んでしまっていたけれど。
(──なんだ、)
わたしはすでに、『死体』だったのだ。
≪sice 4:00≫ ハッピーエンドのお約束Ⅱ
めでたし、めでたしで終わる物語。
理不尽な運命から、姫を救う王子の話。
──これは、ハッピーエンドを迎えた幸せの話だ。
他の墓石に比べ、未だ真新しく見える墓の前にひとりの男がいた。
男は膝を折り、首を垂れ、いつも泣いていた。
「ああ、ああ、ああ。愛しいひと。」
「どうして死んでしまったんだ。どうして私を置いていったんだ。」
男は来る日も、来る日も泣いていました。
しかし、墓石はなにも言いません。男の涙に応えません。
死んだ人間が蘇ることはありません。
そんなこと、男にはわかっていました。
ですが、祈らずには、願わずにはいられなかったのです。
「もう一度、君に会いたい。もう一度、君と過ごしたい。」
「どんな代償を求められようと、どんな犠牲を払うことになろうとも」
「この願いが聞き届けられるのであれば、私は
どんなこともできるだろう──!」
どれだけ想いが強くとも、現実は夢物語のようにはいきません。
それでも、それでも。仮に、もし。
そんなことが起こり得るのであれば。
「──その祈りに、偽りはありませんね?」
──ふわりと舞う、花の薫香。
そこには、いつからいたのか──白金色の髪の少年が、彼を見ていました。
穏やかな微笑みを携えた少年は、男に言います。
「わたしは、アナタの祈りを聞きました。」
「可哀想な人。愛しき人を失ったその穴は、未だ塞がらないままなのですね。」
少年は男の元まで歩み寄り──。
ゆっくりと、残りの開いた溝を埋めるように 手を差し出しました。
男自ら、それを求めるのを待ちます。
「アナタが本当に望むのであれば」
「他の何を犠牲にしてでも、失った日々を取り戻したいと願うのであれば」
「さあ、この手を取ってください」
……男は、大事なひとを失いました。
何度も運命を呪い、神を恨み、悪魔にも祈りました。
しかし、現実は夢物語のようにはいきません。
そんなことは、男にもわかっていたのです。

ですが、もし。
もし本当に、彼の望みを聞き届ける魔法使いがいたのだとすれば。

──その手を取ってしまっても、無理のない話だったのです。
きっと誰にも、彼を責めることなどできなかったのです。
あれからというもの、墓の前に男の姿は現れませんでした。
すっかり墓は汚れ、草が好き放題に生えて、あのころの見る影もありません。
しかし、男は幸せでした。
だって、彼の傍らには──いつでも、愛しい人の微笑みがあったのですから。
・・・
そいつの正体が、いったい何であるかなど 気にもとめないで。
ひと気のない墓に、青い花が添えられる。
墓を見つめるのは、あの少年だった。編まれた長い髪が、花とともに揺れる。
「……本当に、可哀想な人」
彼は相変わらず、穏やかな微笑みを携えていた。
▓▓▓▓▓・ハッピーエンダー
異能 『 泥被る造花 』
1.
██から█████奪う。█████████████は問わない。
この場で指す▓▓▓とは、█████████████████████のこと▓▓▓。
2.
擬態能力を有する泥を操ることができる。例えるならば、精巧な▓▓▓み、蝋人形。
3.
2の████████████寄生させる▓▓▓、██████████████████。
████████████際には█████邪魔と▓▓、██████████てしまう。
███ものに▓▓▓▓▓▓ない█████を長時間███████こと▓▓▓▓弱化・崩壊████████████。
また、保有する███████せ、誘惑し、陶酔させること███。
4.
使用者自身に███████、精神・記憶の▓▓▓▓可能。
▓のため、【▓▓▓▓崩壊█████はない。
5.
██████████ことで、使用者は代償として自身の【私】を一部損失する。
──荒廃したイバラシティの景色の中を、歩いて行く。
合流しようと声を掛けてきた、アンジニティの住人の元へ。
ふいに、少女が口を開いた。
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転生者 「私。あなたのこと、嫌いだわ」 |
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ミハル 「おや──はっきり言いますね。傷つくなあ」 |
男は困ったように笑う。歩みを止めることはない。
──随分と慣れてしまった、花の香りが鼻腔をくすぐる。
いつも花に包まれているからか、それともまた別の要因か──
眼前の男はいつでも、この香りを身に纏っていた。
甘くて、ひとの警戒心を解かしてしまうようなかおり。
優しくて、ひとを酔わせてしまうようなかおり。
やわらかくて、ひとを惑わせてしまうようなかおり。
あの人の──兄の、におい。
きっと彼は、"私"の理想の兄だった。
優しくて、勉強を見てくれて、たまに厳しくて。でも、つくってくれる料理はおいしくて。
元々の私は一人っ子だったから、兄姉という存在には憧れていた。
イバラシティの生活は幸せだった。
彼は、大好きな兄だった。そうだった、はずなのに。
──足を止めて、俯く。
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転生者 「──うそつき。 私の言葉なんて、気にも留めていないくせに」 |
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転生者 「嫌いよ。あなたなんて。大ッ嫌い」 |
あの世界を壊す。その気持ちに揺らぎはないし、嘘はない。
あの世界に罪はないけれど、でも、恐ろしくて仕方がない。
どんなに幸福でも、どんなに前を向いて生きても、
理不尽に奪われることに違いはない。
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転生者 「──どうして、同じ姿のままなのよ。それか、せめて、」 |
だが、それでも。
嫌だった。
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転生者 「敵でいなさいよ。あの生活を、守ってよ。 どうしてこっち側なのよ。……バカ兄貴」 |
幸福であった思い出まで、
"否定"されているようで。
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ミハル 「────」 |
前を歩いていた男が足を止める。
踵を返せば、柔らかい髪がふわりと揺れた。
──泥のにおいがする。
暗い、昏い、▓、の、────。
にこりと、男は柔らかく微笑んだ。
彼の"声"は、"狭間にとける"。
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ミハル 「……オレね。イバラシティに住む人も、 そして、お前たちのことも。大好きなんだよ」 |
──男は楽しそうな足取りで、ハザマの街を歩いていった。