!caution! 流血表現がございます。閲覧にはお気をつけください。
——人の形をした獣だと思った。
一瞬の出来事だったが、それはまるでスローモーションの映像を見ているようだった。
その獣は自分たちの姿をとらえるとニタリと口の形をゆがめ、
体の構造を無視しためちゃくちゃな動きで、一直線にこちらに走ってくる。
それは距離を詰めると、人の倍はあろうかという大きな腕を振り上げた。
あれを食らえばひとたまりもないと本能的に感じた。
ぬらぬらひかる鋭い爪が襲いかかる。
姉だけでも逃がさなければ。
その思いで、彼女を後方に突き飛ばそうとしたが
逆に引き寄せられ、抱きしめられた。
「 お願い。私を“もう”ひとりにしないで。 」
20XX年12月29日
文書番号:XXXX-20XX152
制定日:20XX年04月20日
改定日:20XX年05月31日
保管期限:5年
機密区分:社外秘(LEVEL:X)
事故報告書
※事故を発見したら、部門長(1時間以内)とセキュリティ担当に連絡すること。セキュリティ担当は、セキュリティ委員会(翌営業日の10時までに)に第一報を入れること。
違反番号:GOC-20XX12XXXX
分類:暴走怪人による事故
違反個体識別番号:顕-H-20XXJ0023
重要度:一般
管理責任者:緑晶ヨウジ
【事象の詳細】
下位怪人[顕-H-20XXJ0023]の暴走による傷害および殺人。
被害者は一般人二名 宵張ヤスヤ、宵張ミチル(所持品の学生手帳から判明)
怪人[顕-H-20XXJ0023]は現場到着時には死亡。損傷状況から異能による攻撃を受けたものと考えられる。
セキュリティ事故手順に従い、一般事故工作を行う予定だったが、
緑晶ヨウジの指示により、試料として被害者を回収。目撃者への記憶操作/現場清浄処理を行った。
【経緯の詳細】
12月26日 09時12分 ・研究員奥山 [顕-H-20XXJ0023]が保管室から脱走していることに気づく。
09時13分 ・研究員奥山 セキュリティ担当 ト字へ連絡。
09時13分 ・セキュリティ担当 パートナー■■■■へ連絡。
10時26分 ・パートナー■■■■から、一般市民から警察へ疑わしい通報があった旨連絡を受ける。
10時34分 ・緑晶指示のもと、事故処理班を向かわせる
11時11分 ・事故処理班到着。
11時12分 ・現場封鎖開始。
11時14分 ・現場封鎖完了。
11時30分 ・怪人[顕-H-20XXJ0023]を確認。回収。
11時35分 ・被害者を確認。回収。
12時13分 ・事故処理班 目撃者への記憶操作完了。
12時20分 ・現場清浄処理完了
12時30分 ・現場封鎖解除。
12時30分 ・事故処理班撤収。
12月27日 XX時XX分 .........
*
*
*
「侵略者が集まってきている。一人でここにいては危険。」
荒廃したハザマに似つかわしくない幼い声がヤスヤを忌まわしい記憶の渦から現実に引き戻した。
声のする方向に目をやれば、瓦礫の上から白い子どもがヤスヤを見下ろしている。
まるで世界に存在しないかのように彼女には色がなく、存在が朧気だ。
モンスターの次は幽霊か?ヤスヤは笑ってしまった。
ハザマだとかロストだとか侵略者だとか、もう何が何だかわからない。
たが何故だろう。その子どものことは、ずっと前から知っているような気がする。
 |
白い子ども 「はやく。こっちよ。」 |
白い子どもは焦れたように、ヤスヤの手を強く引いて走った。