※ ア ン ジ ニ シ テ ィ の 記 憶 ※
~ case.真柄 信 ~
【 あ ら す じ 】
前々回の日記の続き。道玄坂の戦いが終わった後の話。
【 ロ グ 】
http://lisge.com/ib/k/1/r94.html
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牛鬼丸 「……………」 |
真柄 牛鬼丸 信繁
報恩の世界《アズマ》の侍。
道玄坂で謀反兵700騎を迎え討った後、
否定の世界《アンジニティ》へ落ちる。
道玄坂の戦いの後、俺は否定の世界へ落ちた。
城へ戻る途中、竹藪を抜けた先に広がっていたのは瓦礫と荒野。
見たこともない景色に呆けながら歩き回っていると、飴の匂いがする桜髪の女に出会った。
彼女が言うには、この世界の名はアンジニティ。
様々な世界からの『否定され追放された者』が棄てられる流刑地であると言う。
そこでようやく、自分はあの道玄坂で人の恨みを買いすぎた事を知った。
世界の掃き溜め。アンジニティ。
環境は悪く安息の地も無く、内から外への道は完全に閉ざされている。
報恩の世界《アズマ》の地を踏むことは、二度とないだろう。
報恩すべき国もなければ、守るべき主君も友も民も居ない。
この荒廃した地を歩き回るうちに、朽ち果てた鉄の船を見つけた。
破壊された飛空艇
かろうじて形だけ保っている鉄の塊。
この船に何があったかを気にする者は
この地にはいない。
この船を拠点として、ようやく雨風を凌ぐすべを得た。
それからの時間は、この地で出来ることはないかを試す事に日々を費やした。
結果はどれもこれも、実を成さぬ徒花で終わった。
それでも続けた。
国を失った侍には、他にやることもないのだから。
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約1年後、無為の日々は唐突に終わりを告げる。
エディアン。
ワールドスワップの案内人。
突如として差し出された可能性に、半信半疑ながらも手を伸ばした。
叶うのならばもう一度、侍として戦場に立ちたかった。
民と国のために気炎を吐き出し、騎馬で駆け抜ける。
秩序のない不安と戦うために、武を振るう機会が欲しかった。
最初はただそれだけだった。
※ ハ ザ マ の 記 憶 ※
イバラシティでの日々を思い出す。
今こうして過去の経緯を振り返って見てみれば、
荊の街での生活は、完全に予想外だったと自覚している。
あの街の自分には居場所があった。
創藍高校に仲間ができ、小さな常連客と仲良くし、他校の先輩や友人も増えていった。
あの街で築いた絆は、本物だったと思う。
少なくとも自分にとっては。
だからこそ、真正面から向き合う覚悟を決めた。
友として、仲間として、後輩として、先輩として、あの街で暮らしたガラス職人として。
あの街で紡いだ縁と絆が形を成し、炎と化す、この戦場で。
情けと憂いと悔いから逃げぬことが、真柄の戦だと思ったからだ。
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荊の街で、親友と呼べる男が出来た。
線の細い中性的な顔立ちに、氷菓子のように白い髪。
時たまキザなところは、あの街の俺とは対照的だった。
転校生だったので付き合いはそう長くはないが、
短い時間の中でも、俺は彼をよく知る機会に恵まれていた。
想いの強さと、情けの弱さを持った、ガラスのような親友だった。
親友はハザマでは敵になった。
もし彼の中で、情けの弱さが勝つのなら、
背中を任せて荊の街と戦う未来もあったのかも知れない。
だが、どうやら彼にとっては想いの強さが勝ったようだ。
良かった。
彼は真柄の見込んだ通りの侍だった。
ハザマで声をかけた時、彼は俺を名前で呼んだ。
あの街で築いた絆は、彼にとっても嘘ではなかったようだ。
なら、敵でも良い。
鞠安ルネの出した答えが、刃で語られるのなら。
それに応えるのが、真柄の戦なのだから。
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真柄 「俺の親友は、立派なますらおじゃった。 まことに喜ばしい。真柄にとっても、これ以上ない誉れじゃ」 |
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真柄 「元から弱い男ではないと知ってはおった。 その剣を向ける先は、人に流されず、自分で選ぶ男であるとも」 |
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真柄 「それでこそ、この真柄の友輩じゃ。 ……ただ、惜しむらくは」 |
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真柄 「もう、共には居られんということじゃな」 |
― ハザマ時刻 2:00~3:00 ―
ENo.378 鞠安ルネの日記に続く