
ノイズ混じりの記憶。
二人並んで歩いた通学路。
代わり映えのない日々、代わり映えのない毎日。
四季折々の、なんでもない、だけど刺激的な思い出。
それがどれだけ貴重だったのかは、分かるのはただ一人だけ。
たった一人の為の物語、たった一人にだけの宝物。
………………。
…………。
……。
■■■■■■────ッ!!
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狐 「っか~~! もう鬱陶しいわねぇ。これだから嫌なのよ!!」 |
知りもしない、そしてありえもしない記憶が脳裏を走り抜けた。
ワールドスワップの、世界線の補修を行うために思い出を開いた反動が来た。
いくら記憶を抜き取って閉じ込める事ができるからと言って、思い出すからにはその封を緩めなければならないのが困りもの。
飲み込まれるほど惰弱ではないけど、全く意に介さないと言うには不快にすぎるのよね。
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狐 「今日はどのへんの…………あっちゃ~そうだ、もうすぐバレンタインじゃない」 |
思い出したのねぇ。
ま、仕方ないか……一世一代の大勝負だったものね花折美織にとっては。
結果は散々だったけど。
いやむしろどうしてああなっただけどね? 本当にどうしてああなったのかしら? まぁ面白いから良いんだけどさ。
う~ん、前準備でこれなら本番が来たときの頭痛は如何程のものなのかしら。
人の恋バナ自体は嫌いじゃないんだけど。いやむしろ好きと言っていいぐらい。
純愛も偏愛も略奪愛もなんなら殺し愛だって好きよ私。
私自身は純愛100%の両思い希望だから花折美織がと同じは御免こうむるんだけどさ。
私が奪う側前提なら略奪愛もオッケー。逆はぶっ殺してやる。
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狐 「とは言え……やれやれ、これじゃ先が思いやられるわね」 |
いや本当に。
これからの時期はとっても記憶が"強い"。
花折美織の大部分は嘘だけど、この思い出は全て紛れもない本物で、根幹に関わる出来事。
故に密度が違う。記憶としての密度の違いは内包する存在の大きさがまるで異なる。
整合性を取るための曖昧なエピソードですら、これらに添えられれば大きな力を持ってしまう。
うーん、何というのかしら?
メインディッシュを盛り上げる付け合せみたいな?
極上のお肉の横に盛り付けられたやつって相乗効果でとっても箸が進むアレ。
話がそれた。
とりあえずこれは放置したらヤバいのよねぇ。
うーん、どうしたものかしら?
そもそも普通に危ういのよねぇ。
私の勘が囁く所によると、より神秘の濃いこっち側だととある事が起こりえるのよね。
しかも問題ないと言えばないんだけど、あると言えば大いにあるっていうね。
………………。
…………。
……。
うーん。
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狐 「やっぱりぶっ殺しちゃおうかな。」 |
こっちでのいざこざは向こうには影響ないけど、こっちで出会う彼はちょっと問題になりそうだしね。
悩みの種になりそうなものは予め取り除いておくに限るわ。
っていうか、私もちょっとだけ彼に興味あるし?
別人とは言え私を落としたわけじゃない? じゃあ顔ぐらい合わせておいても良いでしょ。
んで、適当に遊んだらサクッとやっちゃって後顧の憂いを断つ、と。
よし、この手で行きましょう。
そうよ、だいたい私には遊びが足りないわ。
こんなの私じゃない。
人生には遊びがないとね?
恋愛だってまずは楽しまなきゃならないんだから。
楽しそうな事はいっぱいあるじゃない。
サングラスのあの子はどうかしら?
太めのあの男の子は少しは頑張ってくれるかな?
坊主はどうかな? 私仏教徒嫌いだからどうなっちゃうか分からない。
赤髪のあの子は? 元気なあの子が泣く所は見てみたい。
ああ、そうそう杏荊ちゃんはどうしてるのかしら? 一度お話しみたい。
あはははは!
なんだ結構楽しめそうじゃない。
そうと決まれば、一緒にいる二人に声をかける。
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花澱御降 「ねぇ、私ちょっと野暮用を思い出しちゃったんだけど……ご一緒しない?」 |
ちょっとちょっかい掛けたい男の子がいるのよ。
名前はね………ニノマエ エイトくんって言うんだけど。