「おい待てよジジイ! 修行は終わりってどういうことだよ――!!?」
「もう教えることが無い? どうしてそうなるんだよ?! 俺はまだ何も――」
「なんだよ黒渓――……は? 任務??」

「俺一人で……このまま? なんかもっと段取りとか準備とかそういうの無いわけ??」
「……はぁ――わかったよ。とりあえず行けばいいんだよな?」
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団員 「おいおいナメたマネしてくれるねぇ!!!」 |
メンバの一人の男が間髪入れずに少年の胴体へ向けて刀を振り下ろした。
異能により切れ味を増したその刃は、彼の胴体を寸断……することなく途中で止まった。
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団員 「は――」 |
男が刀を引き抜こうとするが、逆に彼の腹筋が刃を締め付けて微動だにしない状態となる。
そして――
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団員 「あがっ――」 |
そのまま刀を持っていた腕と掴んで引っぱりとついて引き寄せられてきた頭部に一撃。
するとその男の頭部は血を吹き散らしながら何処か遠くへと飛んで行った。
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竜次楼 「(なるほどな……)」 |
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団員 「……なんだコイツは――」 |
よく判らずにいた。
修行をする意味、そして己自身がそれを求める意味。
戦うとはどういうことか。なぜ戦うと決まっているのか――
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竜次楼 「(…………)」 |
だが、このやり取りでなんとなく見えてきた気がした。
パンッパンッ と、廃墟に銃声が響く。
銃弾は、2発とも腹部に刀が突き刺さったまま近づこうとする彼の頭部に的中する――
が――
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竜次楼 「――」 |
彼は怯むことすらもしなかった。
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団員 「あっ――ぎゃっ……!」 |
そのまま近付き様に張り手をかますと、銃を持った男の首が皮一枚だけ残して横にぶら下がる。
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団員 「おい、リーダー……!?」 |
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イーグレット 「チッ」 |
イーグレットは舌打ちしながら手を開いて構えをとった。
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団員 「えっ……ちょ、おい待て今それを使われたら俺まで――」 |
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イーグレット 「そうだ。まずはお前が見せしめになれ」 |
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団員 「はぁっ!? ちょっとま……あ……」 |
イーグレットが空をひっかくように手を動かした次の瞬間、
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団員 「……ア"……――」 |
隣のメンバーの男はパラパラと角切りの肉片へと変化しながら崩れ落ちていった。
これが彼、イーグレットの異能"透明ピアノ線"だ。
完全不可視の物体を切断する領域を指先から生じさせ意のままに操る。
幼少期にわけもわからず母の腕を寸断したのがそのはじまりであったが――
そこから彼の心が優越感と選民思想に支配されるまでは幾ばくもかからなかった。
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イーグレット 「止まれ。言葉わかるか? そこで膝をついて両腕を上げろ」 |
目の前の少年に言い放った。
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イーグレット 「さもなくば君もさっきの男と同じなる」 |
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イーグレット 「さて――君のせいで僕はこの短時間のうちに仲間数名と大切な相棒兼恋人を失ってしまった というわけなんだけど……だが幸い僕は寛容な人物なんでね?」 |
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イーグレット 「君が今から僕の右腕兼スパイになって働いてくれるのなら歓迎してあげるよ」 |
そして、そのように呼びかけた。
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竜次楼 「……」 |
が、少年は。その言葉を無視して彼の元へと一歩、また一歩と歩きだした。
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イーグレット 「……警告はした」 |
指を振りかざす。
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竜次楼 「――」 |
すると、ズパッ――と。彼の全身の至る所に亀裂が走った。
服が輪切りに破れ散り、身体に突き刺さっていた刀がバラバラと崩れ落ちるのが見える。
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イーグレット 「(やれやれ――)」 |
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竜次楼 「――」 |
……が、それでも尚彼は一歩進んだ。
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イーグレット 「……は?」 |
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イーグレット 「いや、確かに斬れたハズだぞ? 何故――」 |
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イーグレット 「まさか、寸断されると同時に治癒したとでも? そんなバカな」 |
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竜次楼 「――」 |
少年は、無言のまま彼に拳を2、3発叩きつける。
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イーグレット 「あ"っ――……」 |
1発目でイーグレットの身体は地面に叩きつけられてひしゃげた。
そしてそこからの追撃によって胴体が無残なミンチと化すまで一瞬である。
オマケと言わんばかりに首を蹴り飛ばす。そして――
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竜次楼 「…………」 |
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ラクーン 「……ひっ!」 |
まだ残っていた女性メンバーのほうへと、彼は振り向いた。
そして、少年が一歩踏み出すと――
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ラクーン 「――待って! ごめんなさいっ私は違うの!」 |
その女性は、大慌てでそのようなことを言い、
一歩ずつ接近してくる少年に向かって土下座をしてみせた。
伏せられた顔は見えないが、見れば彼女は何処かの女子高かと思しき姿をしている。
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ラクーン 「私はただ巻き込まれて――何もしてないから、ゆるし」 |
が、目の前まで来た少年はそんな彼女の肩と頭部を手に掴み――
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ラクーン 「――」 |
――コードネーム『ラクーン』。異能は"狸化かし"
外見を自在に偽るその能力を利用して様々な人物を演じ、成りすまし
犠牲者の誘い込みから捜査の攪乱まで数多くの仕事をこなしてきたイレーズの中心メンバーだ。
勿論少年はそんな相手集団の人事事情など知る由もなかったが――
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竜次楼 「(変化するタイプか……)」 |
"生きる者の性質"が見える彼には相手が姿を偽っている事だけはすぐにわかった。
そしてそれ故に――彼は、もぎ取った首と胴体。
その両方から"性質が完全に見えてこなくなる"のをしっかりと確認してから。その首を放り捨てた。
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団員 「…………」 |
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団員 「(じょ、冗談じゃねぇ――)」 |
その一部始終を、少し離れた個所から見ていた男がいた――最初に少年を殴った団員だ。
彼は自身を完全透明にする異能を持っており、その異能を駆使して何人もの大人子供を攫い、
警官やヒーローなどの追跡からいとも容易く逃れてきた実行犯の中心である。
危険を予感した彼は、一足早くその姿を消し彼らから距離を取っていた。
その場に居ないものとして。この少年が気が済んで去っていくのを待つつもりだった。
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団員 「(俺の透明化は完全だ。これ以上逃げなくともこのまま気配を殺してさえいれば――)」 |
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団員 「…………」 |
そう思ってみているうちに、ふといつの間にか相手の姿が見えなくなった。
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団員 「(いつの間に……もう居なくなったのか??)」 |
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団員 「――――」 |
一瞬、安心仕掛けた。しかし、次の瞬間背後に気配を感じ振り向くとそこには――
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団員 「うわああああぁああああああああぁぁぁぁああ……!!!」 |