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空那 「ふぁぁ… 今日もまだ寒いや。」 |
襖を開け、まだ薄暗いながらも朝の陽ざしを浴びる。
宮司の朝は早い…というよりも、この狐が早起きなだけである。
桃宮 空那
小春神社、イバラシティ分社の宮司(神主)
狐の耳と九本の耳を持つ妖狐
その目的とは…。
この街の暮らしにも慣れてきた。
無理を言ってこのイバラシティ分社へ出てきたが、特に何もなく、平和な日々だ。
朝ごはんを食べ、掃き掃除…も今日はそこまで枯れ葉は散らばっていない。
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空那 「折角だから、手紙でも送ってみようかな。」 |
便箋と筆ペンを引っ張りだしてくる。
ちゃぶ台に向かい、左手にペンを持つ。
拝啓、桃宮 小春様へ
まずは明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
三が日はほどほどに忙しく、一人じゃ手が回らないくらいです。
暇な時間は髪飾りを作ったり、料理を作ったりしてます。
まだあのえびまよおにぎりの味が出せませんが、それでも好評です。
そうそう、友達も何人か出来たんですよ。
そちらの神社は初詣、どうでしたか?
忙しかったですか?
寒いからってコタツで寝落ちしてないですか?してるでしょうね。
神様が風邪でも引いたら氏子さんたちに示しが付かないので、ちゃんとお布団で寝てくださいね。
春まであと少し。
春になったらまた一度戻ろうと思います。
お土産は何がいいですか?
恐らく見ていると思いますが、こはる様に会いたいと仰ってくれてる方も居ます。
紹介したいので、良かったらこちらにも遊びに来てください。
この街にはイノカク、なるスポーツ文化もあるそうで
異能を使って模擬戦を行う催し物のようです。
スポーツといえど侮れず、
なかなか手練れの人もいらっしゃり、きっと多くのことが勉強できそうです。
運動不足の解消にもなりそうです。
あぁ、星はもう落としません。あれをするときっと街ごと壊れてしまうので。
そして、俺が懸念していた、何等かの力がこの街を狙っているということ。
何人かからの証言によると、『シロナミ』なる人物から、
侵略が行われているという連絡があった事が聞き出せました。
今のところ周りでは何か不可思議な現象が発生した形跡は見られていません。
俺のこの眼でも感知できないものなのかもしれません。
ただ、人ならざぬ者が人の姿をしているのはこの眼に映ります。
それが侵略の影響なのか、各自の異能のせいなのかはわかりません。
この街は異能の街なのですから、結びつけるのは早計かと思いましたが、念のため。
俺はもう少し、探し物を待ち続けます。
P.S.
お気に入りの子を見つけました。
どうも狐と縁が深い子なようで、雇い巫女にしてもいいですか?
年はおそらく同い年くらいで
春告げの髪飾りがとても似合ってて
それはとてもからかい甲斐のある可愛い子でした。
Kuna Frage.
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空那 「あ、あだだっ。 足つったっ……」 |
実は正座は、余り得意ではない。
手紙を書き終わると痺れた足に血流を送るようにぴん、と伸ばし、暫し悶える。
……
さて。
手紙を手に縁側に立つ
手のひらからふわり浮かびあがり、風に乗って空へ、空へ。
――宛先の無い手紙も
――きっと届けたい人の元まで
青空へ飛んでゆく手紙を見送った後、暫くそのまま空を眺めていた。
いつの間にか日も昇りきっている。
青い、蒼い空だ。
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空那 「んっ、誰か来たみたいだ。」 |
この神社は、俺の場所。
…全てが、俺の眼の届く場所だ。