
どうやらハザマには想像以上に多くの人間――もちろんヒトならざる者も――が入り込んでいるようだ。
それは老若男女問わず様々で……俺が合流できたのは皆学生だ。
勝手知ったる仲、とまでは行かなくとも同年代であるというのはやりやすいに違いなかった。
ひとまず次のチェックポイントへ向かうため進行したのだが、そう簡単にはいかない。
また現れた化け物達を退けて一息を吐いた。完璧な連携とはいかないが初戦でこれだけうまく戦えるのならこれからの過剰な心配は必要なさそうだと感じた。
そして戦闘を挟み、休憩が必要だろうと足を止めている所だ。
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透司 「こんな時だけどやっぱり頼りなるのは仲間だ。いやー運が良かった」 |
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透司 「この調子なら心配も……無いわけないよなぁ」 |
本当に危惧すべきは化け物ではなく、侵略者達なのだ。実際に遭遇するかはさておき、知り合いがもしかすると敵(アンジニティ)なのかもしれないと考えなくてはならない。
これだけは避けられない。
目を背けられない。
背けてはいけない。
嫌だった。
それでも。
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透司 「世界も時間も、待ってはくれない」 |
その時が来るまでに向き合っておきたかった。
なし崩しに終わってしまうのはもっと嫌だ。
* * *
風の音はもうしない。
こんなことも日常的にあった。
あったはずだ。
今はもう、無かったことになっているけれど。
私は今でも覚えている。あの土の匂いも、陽射しの暖かさも、引かれた手の感触も。
……どうにも感傷的になっていけない。
次の欠片を探し出して手に取る。
うっすらと見えるこの景色は馴染みのある家。
いったい今はどうなってるんだろうか――
*『みっつめ』*
自分が裁縫をするようになったのは何時からだっただろうか。
自分の部屋。昼下がりの空を手慰みに糸を弄りながらぼんやりと眺めている。
もうはっきりと覚えてはいない。きっと物心つく前から触れていたのだろう。
うちはそういう家なのだから。
父親は特に意識をしていただろうし、外から入ってきた母親もきっと同じように考えていたに違いない。
強要こそされなかったが、日常的に我が身を囲んでいたのだからその道に興味を示すのは自然なことだった。
ぴんぽーん
チャイムが鳴る。彼女だ。
糸から手を放し玄関へと向かう。
それこそ彼女の存在も、自分にとっては自然なものだった。
生まれたときから傍に居て、何をするにも一緒だった。
親は当然違う。親戚でもない。しかし、近所で親の仲が良いというだけで子どもが一緒の居る理由としては十分だった。
扉を開けるとそこにはやはり、想像通りの姿がある。
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少女 「えへ、来ても大丈夫だった?」 |
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とうじ 「来てから聞くなよ……ほら、上がって」 |
いつものように彼女を自分の部屋まで連れていく。
これまたいつものように、付いてくるその手には縫いぐるみが抱きしめられている。
彼女はかわいいものが好きだった。縫いぐるみもその例に漏れない。
だからよく、これをつくってあれをつくってとお願いされた。
そう。本格的に裁縫を始めたきっかけも彼女だった。
初めて作品として完成したのは巾着袋。不格好でとても人に渡せるものでは無かったのだが、彼女はそれを欲しいと言い、しぶしぶプレゼントすると笑顔で喜んでくれた。
その時にきっと自分は誰かのために作る事の楽しさを知ったのだと思う。
なんとなく、手慰みに作るものがかわいくなるのも、その所為なのだ。
別に作るもの全てを贈るつもりは無いのに。そうしてしまう理由だけは分からなかった。
部屋に入れてからお茶を出す。
他人の部屋ながらまるで自分の部屋の様にくつろぐ彼女に文句をいう努力はとっくの昔に諦めている。
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とうじ 「で?今日は何の用?」 |
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少女 「別にないよー。暇だったから、かな」 |
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とうじ 「あのな……いつも言ってるだろ。お前他に行くとことかやる事とか無いのかよ?」 |
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少女 「んーと。逆に聞くけどあると思う?」 |
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とうじ 「はぁ。もういいや。別に困っても無いし……」 |
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少女 「それこそとうじだって私以外に誰かいるの?」 |
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とうじ 「……よく見たらその縫いぐるみまたほつれてるから直すよ」 |
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少女 「あっ!誤魔化したな!」 |
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とうじ 「うるさーい。ほら、早く貸せって」 |
ぶつぶつと口をとがらせて文句を言う彼女を無視して縫いぐるみを回して見る。
1、2、3……パッと見えたところ以外にもまだ修理箇所はあるようだ。
これもやはり、よくある事だった。
一針、二針、針を入れるたびに
――ノイズが視界を覆っていった。