
暗く、狭い世界だ。
ここ、ハザマを自分はそう感じている。
イバラシティと同じような場所のようだからきっと狭くは無いのだろうけど……やはり窮屈なのだ。
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透司 「なんでなんだろうなー。無理やり固定しているみたいな感じがするからなのか」 |
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透司 「単純に俺がここに閉じ込められて早く出たいってだけか。落ち着かねーんだもんここ」 |
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透司 「外どうなってるんだろ。ハザマって言うぐらいだし何にも無いんだろうなぁ……」 |
先ほど現れたナレハテはなんとか処理できた。
案外、殴る蹴るのが効いたようで余裕だったが……明らかに雑魚だったし運が良かったというやつなのかもしれない。
そのあと、威勢のいいおっちゃんにタクシーに乗せられてきた訳だ。
道じゃなく、”次元”を通ってるらしいけど詳しい事は何も分からないし教えてくれなかった。曰くハザマの機能らしい。ってことはあのおっちゃんも人間じゃないんだろうか。変な気配もしなかったし、おばけともまた違って、かと言って同類って感じもしなかったし。
……こういうのはあんまり気にしない方が身のためかもな。大人しく乗せられとこ~。お世話になります次元タクシー。
さて、そうやって今、最初の――所謂チェックポイントに居る。
散策中に記憶も流れ込んできた。イバラシティの10日分の記憶。
どうやらこっちに来てから1時間経ったらしい。
聞いた話だとハザマで1時間ごとにイバラシティに戻されて、ハザマの記憶の無いまま10日間過ごし、またこっちにもどってからハザマで……という繰り返しらしい。
だけど、ハザマに居る自分の感覚的には先ほどの様に1時間ごとに10日分の記憶が流れ込んでくる世にも奇妙な感覚だった。
明らかに自分がやったことで、記憶が流れ込んで来ればそうしようと思った理由も体験したことも"覚えている"のだ。それでも突然、一気に来るもんだからギャップで脳が混乱するのも無理はない。これからハザマで過ごしていけば慣れるのかもしれないが……あまり快い感覚ではないので慣れてしまうのも嫌だった。それこそ、イバラシティから、日常からとおぞかった存在になってしまう気がする。
今回は時期的に年を越したらしい。
クリスマスのあとに相変わらず七不思議の探検に行って……
いや、今回は一人ではなく友人と行ったんだ。いつも一人で出歩くもんだからどうなるかと思ったが向こうも探検好きらしく結構楽しめたんだ。
んで、新年はマシカの海で初日の出を見て、初詣して……勝負運の神社で良かったわ。まさかこんな戦争に参加してるなんて思わねーし。
それから……部室は相変わらずだな。なぜか羊野が男装したいとか言い出して制服を貸したり……一応ハザマに来てから全員に声をかけてみたけど、大丈夫だろうか。ハザマの化け物にやられてなきゃ良いんだけど。
それに……アンジニティの奴らじゃないと、いいな。
クラスメイトの奴も、他の知り合いも。
理解できないとは言わないけど、やはり心の整理はまだつきそうにない。
――いい加減動かなければ。
そう思って足を踏み出した時、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だったのだ。
* * *
視界が晴れていく。
この欠片はもうこれで終わりということだ。
これは、あの日の、あの時の記憶。ここで一度あの子は……
考えても仕方のない事だ。感傷に浸る暇などない。そんな資格も……ない。
変わらず鈍く輝くその欠片を大事に仕舞って次の欠片へと手を伸ばす。
何度聞いてもこの擦れた時に奏でる音は不快だった。しかし、これもあの子の為だと思えば耐える事ができた。
まだまだ人の気配は無い。ゆっくりと、慎重に。チャンスは少ないのだ。
何より大事なこの記憶を傷つける事だけはあってはならない。
――見つけた。
ゆっくり拾いあげてみればやはり目的のブツ。
同じようにソレを覗き込む……
*『ふたつめ』*
見渡す限りの木々と草むら。
うっすらと木漏れ日が差し込んでいる。
地面もはっきりと見えないくらいの深い森。
はぁはぁ、と息を切らしながら足場の悪い斜面を駆け上がっていく。
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??? 「まってよー!」 |
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??? 「おーい!早く上がって来いよー!」 |
後ろからかけられた声に振り返って応える。
足は止めないが、気持ちスピードを落として。
確かに、自分とは違って後ろの少女にはこの環境はしんどいものがあるだろう。
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??? 「とうじ早すぎるよ……わたしもう息できないくらい……疲れたよ……」 |
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??? 「んーーー。あとちょっとだから、な?頑張れ!」 |
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??? 「頑張れって言われてもぉ~」 |
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??? 「しょうがないな!ほら、こっち来い!」 |
今度は足を止めて手を伸ばす。
少女はうー、と呻きながらゆっくりと上がってくる。
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??? 「ほら、掴んだ!一気に行くぞ!」 |
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??? 「うわぁ!ちょ、ちょっと、腕とれちゃう~」 |
彼女の手を引いて再び上がっていく。
力強く引いてやればなんとかついてくる。
ちらっと後ろを向いてみれば大変つらそうな表情だが、自分にそれ以上を気遣うような余裕はなかったのだ。
前を向く。
それまで暗かった視界に大きな光が見えてきた。
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??? 「もうちょっとだ!てっぺんまで着いたんだよ!」 |
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??? 「ほ、ほんと…?とうじってば普段はあんまり動いてないのに探検の時だけ元気になるよね……」 |
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??? 「好きな事だからな! よし、やっとだ!」 |
一気に開けた視界。
眩しさに思わず目を瞑る。瞼を通してもその光を感じる事ができるくらいだ。
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??? 「はぁ……はぁ……ここが、来たかった場所?」 |
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??? 「そうだ!普段誰も来ない山の上にある広場…こんなの絶対何かあるだろ!」 |
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??? 「ほ、ほんとかなぁ……ふぅ」 |
やっと息を整えて。周りを見渡してみると聞いた通り、急に木のない空間があるみたいだ。
てっぺんだ、と言いはしたがここはまだ山の中腹らしい。そんなに見晴らしも良くない。
ただ、解放感は素晴らしかった。
ごろん、と草原に寝ころぶと、疲れが空に向かって飛んでいくような気がした。
森の中と同様しんと静かだが、ここでは風のそよぐ音が心地よく聞こえる。
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??? 「満足した?」 |
突然影になる。少女は覗き込むようにして頭の近くに立ったのだ。
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??? 「……まぁな。ほんとに何にもないとこだったけどこれはこれでアリだ。」 |
よっ、と上半身を起こすと、少女も隣に座った。
彼女はどう思ったのだろうか。
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??? 「そっちはどう?」 |
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??? 「どう?って……綺麗な場所だな、くらい。 <F2>わたしは――なら――でもいいんだけどね<F2>」 |
困ったような顔。背を向けてぽつりと何かつぶやいた気がしたけれど、一際強く吹いた風で良く聞こえなかった。
ざあああああああぁぁぁぁ……
風とともにノイズが強くなる。
……視界が途切れた。