-■■の記録 その3-
・・・その日は、いつもより暗い雰囲気だった。
・・・その日は、いつもより不思議な雰囲気だった。
宵闇亭に二人の従業員が新たに入った。
そのことから、彼らも同じようにハザマに来るのだろうかと想定していた。
・・・結果は、予想通り。彼らもまた、僕らと同じ「アンジニティ」側だ。
 |
アマベル 「やあ、エル。キミたちが侵略者の味方をしているというのは本当だったんだね?」 |
アマベル・ライジュ
レティシエルたちの知り合いの男。
レティシエルたち同様、ハザマにいても人と変わりない姿。
しかし彼のその全容は謎に包まれている。
 |
カサドル 「まさかお前が侵略者だなんてな。息子が聞いたら驚くだろう」 |
カサドル・セプテン
アマベルを主と見立てている目隠しの男性。
ハザマ世界では両腕と両足が獣の姿となる。
 |
レイ 「うーん、何故来た」 |
 |
アマベル 「好奇心!」 |
 |
カサドル 「アマベル様が来いって言うから・・・」 |
 |
アニ 「相変わらずカサドルはアマベルが好きだな。ギルドの連中もいるだろうに」 |
 |
カサドル 「みんな休暇取ってるから・・・」 |
 |
アニ 「ああ・・・」 |
アマベルとカサドル。この二人は、人に害をなすと言われる『闇の種族』。
だが二人は闇の種族でありながら、人と共存を考えている特異な存在。
そのため、普段はギルド『ダブルクロス』の一員として、人間たちとともに活動を行っている。
今回は僕らに呼ばれたというわけではなく、なんとなしに興味を持った故の行動なのだそうだ。
侵略行為を行う僕らと相反するかと思ったけど、"仕事"だと聞けば邪魔をする義理は無いと思ったらしく。
助かったァ・・・。
 |
アマベル 「だから僕らもお手伝いできたらしようかなぁって思ってさ」 |
 |
カサドル 「喜べ。アマベル様直々のお手伝いだぞ」 |
 |
レイ 「カサドルってホント、アマベルのことが好きなんだねぇ・・・」 |
 |
精一杯のドヤ顔 |
 |
レイ 「うぜぇ!!!」 |
 |
マリス 「まあでも、戦力強化は嬉しいよ。 私たちだけでは出来ないことが、彼らにお願いできるしね」 |
 |
セノ 「よろしくねー、アマベルおにーさんとカサドルおにーさん」 |
 |
ユウ 「・・・・・・」 (。・ω・。o[よろしくねー]o |
各々挨拶を終えたところで、セノが声を上げた。
彼はどうやら未だ、僕の状態がよくわからないようで。
 |
セノ 「父さんって今、記憶喪失みたいなことになってるよね」 |
 |
レイ 「うん、まあ。思い出せないのは自分自身のことだけど」 |
 |
ヘル 「それがどうかしたのー?」 |
 |
セノ 「うーんと・・・。実はね、」 |
 |
セノ 「似てるな、って思って」 |
 |
ディー 「・・・似てる?」 |
セノはうん、と小さく頷くと、自分が誕生したときのことを思い出した。
その時のセノフォンテという存在は、まだ【アニチェート】の一部だった。
そして当のアニチェート本人は、自分自身の記憶──主にフォンテ・アル・フェブルについてだが──を思い出せなくなっていた。
記憶障害というもので片付くものではない。
むしろそれは、自分が生まれようとするために少し記憶を貰うというようなもの。
人という存在が動くための記憶。自分という存在を形作るための記憶。
自分が何をすればいいのかという記憶。人が立つためにはどう動くのかという記憶。
それらをほんの少しずつもらいながら、セノフォンテは生まれたのだという。
 |
シルバ 「・・・なるほど。確かに、今回のケースとしても当てはまりますね」 |
 |
ディー 「しかし、記憶喪失になるまで記憶を奪うもんなのか?」 |
 |
セノ 「俺の時は・・・フォンテのことが大好きだったから、フォンテの記憶ばかりを奪ってた」 |
 |
アニ 「ああ、確かにセノが誕生する直前までフォンテのことを思い出せなかったな」 |
 |
マリス 「そうか・・・つまり今、エルが自身のことについて記憶がないのは」 |
 |
ユウ 「・・・・・・」 (。・ω・。o[誰かが誕生しようとしているから]o |
 |
アニ 「・・・・・・」 |
アニがとても渋い顔をしている。
こういう時、アニはとても鋭いから・・・きっと、予感はあったのだろう。
しかし、その予感が確実なものになるとは限らない。だからこそ、今まで黙っていた。
確実でない情報を流して、僕らを混乱させまいと取った彼なりの判断なのだろうね。
・・・それにしても、新しい僕か。
セノフォンテを誕生させてまだそこまで年数が経っていない。新規に誕生させるというのは、今の僕では難しい。
ということは・・・世界各地に既に設置したどこかの『レイ・ウォール』が死に、生を得ようと僕のもとへ戻ってきたのだろう。
これまでに設置した世界各地の『レイ・ウォール』は、その世界で死ねばそのまま死ぬ。
けれどディーたちのように【生きることに執念を持つ】者は、僕の元に戻ることがある。
ディーの《執着》、ユウの《嫉妬》、ヘルの《騒音》、アニの《死神》、マリスの《邪悪》、シルバの《神聖》、セノの《孤独》のように、何かしらの性質を携えて。
さて・・・戻ってきた彼は、どのような性質を携えているのだろうか。楽しみだ。
 |
アマベル 「え?また新しい『エル』が生まれるの? 楽しみだねー」 |
 |
カサドル 「アマベル様、なんですかその『また面白そうなおちょくれるのが生まれそう』みたいな言い方は」 |
 |
アマベル 「気のせい気のせい~♪」 |
 |
カサドル 「いや絶対気のせいじゃないでしょう。俺の耳はごまかせませんからね」 |
 |
アマベル 「ふふふ~♪」 |
 |
アマベル 「・・・・・・。」 |
 |
アマベル 「ベルトアのことを助けられる彼だと、いいなぁ。」 |
 |
カサドル 「・・・そう、ですね。」 |
──彼らのつぶやきは、レティシエルたちには届くことはなかった。