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金茶の髪に、金色の瞳。
剥きだした牙は、獲物の血を啜る為の牙。
身の丈よりも遥かに大きな大鎌を振るい、闘いに身を投じる姿。
この姿は誰の、姿……?
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「ぉはよ~、吏瑚ぉ」
寝惚け眼を擦りながら、髪もぼさぼさのまま。欠伸をし乍ら挨拶をしつつ部屋着のままで寝室から出て来た俺をトモダチは呆れた様な何とも言えない声色で言葉を返してきた。
「……将軍。昨日色々あって疲れてたのはわかりますけど」
「ショーグン?なにそれ。俺の事?寝坊将軍みたいな……?」
首を傾げた。それに昨日色々あって、とか言われても、昨日は何も無かったと思う。たぶん。
怪訝そうに見つめていたのか、トモダチは少し慌てた様子で「なんでもあらへん」なんて返してきやがる。
……マジで意味がわかんねぇ。
「悠吏。とりまさっさと朝ご飯食べてしまいなさい。いくら冬休みだから言うて、毎日だらだらしてるのは許さへんよ?」
と、いつもの調子に戻る。
ところで、このトモダチのおうち。2階がトモダチの居住区で俺は3階を借りているんだけれど。
そして今俺がいるのは……
「
……りこさん……あの……何で俺は2階にいるんでしょーか……」
ぎこちない顔で振り向く。その様子が面白かったのか、口が弧を描いて
「おやぁ?憶えてへんの?悠吏、『寂しいから一緒に寝て~』ってぬいぐるみ抱えて降りて来たんやでー?」
「
うそだろ!!!!」
「ふふふ、まあ冗談やけど。……でも昔、まだ悠吏が小さかった頃はよく眠れん~言うてうちの部屋に来たもんやけどなぁ」
「……そうだっけ?憶えてねーや」
ぽりぽりと頭を掻いて更に首を傾げた。
本当にそんな甘えたちゃんだったのか俺は。
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様子から察するに、悠吏はあの気味の悪い空間での事は憶えていないらしい。
(うちの"引き戻し"がちゃんと作用してくれたんやろか……)
ほっと安堵の溜息。
あの場所へ行かなければいけない事以外は、今度こそ平穏に暮らしていけるかもしれないのだ。
ならば、余計な"記憶"まで引き戻す必要などないのだ。
(けれども……いつまで続くのか)
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―ハザマ ノ セカイ ニテ―
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「ははは!!何だ、その程度か!!」
もう元は何だったのか全くわからない"ソレ"を捩じ伏せれば、嬉しそうな、まだ物足りないような、そんな声を上げた。
まだまだ闘いたいと血が騒ぐ。
手に持った大鎌の刃に付いた血を拭うかの様に、大きく振って、持ち直す。
「……リコ。片付いたぞ」
後方に佇む桜色の髪をした人物へと言葉を投げた。
「お疲れ様です、将軍。時に……"辺見悠吏"としての意識は今はありますか?」
そんな問いに、口元に手を当てて視線を斜め上へ。
少しばかり唸った後ににっと笑って口を開いた。
「うむ、あるぞ!……とは言え、悠吏よりも長く生きた"私"の記憶の方が今は強い。――故に、どちらかと言えば……」
「そうですか。……でも、闘っている時の貴方は、"辺見悠吏"そのものでしたよ」
力強さ、闘いに狂う姿はともかく、口調なんかはそのままだと。
言われれば、目を数度瞬いて。
「……そっか。やっぱ俺は俺、ってことだな!っと、そうだったクラスメイトから安否連絡来てたんだった。返しとかねーと!」
にひっと笑う。
―――果たして。
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。oO(悠吏が将軍の記憶に飲まれてしまわなければいいのだけれど) |
そんな心配を一つ。
杞憂に終われば良いと思いながら。
――悠吏は『初めて2-4に登校した時の記憶』を失った。――
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