その女は忌み子だった。
とある地方の、狐に縁のある神を祀り、その血を引くとされる名門退魔師の一族。
長い歴史の末、信仰も権力も、異能〈力〉さえ失いつつあるその家に女は生まれた。
始祖様、初代様の再来。そう言われる程の力を持って。
将来有望な次期当主の誕生に人々はおおいに沸いたそうだ。
その威光で、その力で、傾きかけた家も土地も息を吹き返し、再び繁栄がもたらされる。
誰もがそう信じていた。
実際そうなったし、今でもあの土地は豊かな恵みを実らせている。
ただ、話はそれで終わらなかったのだ。
まず初めに母が病死した。
赤子がその力を制御できるはずもなく、内から呪いに蝕まれていたそうだ。
次はとある侍女。
ふとした拍子に幼女に傷を負わせてしまい、その日の帰り道で事故死したという。
その次は村の子供。
ちょっとした悪戯で、彼が少女を泣かせた翌日、川岸に溺死体が打ち上げられた。
次も、その次も。負傷、不審死、行方不明。
強すぎる力は度々暴走し、不幸が撒き散らされ、少女が物心付く頃には
「関わればただでは済まない」と何処に行っても忌避される世界が出来上がっていた。
それは家の者も例外ではなく、幾らか『心得』のある遠縁の老婆の元に体のいい理由を付けて預けられる。
父を含めた親族は遣いを寄越して力を良いように使うばかりで、決して会おうとはしなかった。
そこからの生活は酷いものだ。
老婆の元で力の本質を知り、操る術を得て。
あやかしを、獣を、悪霊を、人間を。
言われるがままに殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
日に日に力を増す女を恐れ死地へと送る父。
また一つ呪いを溜め込んで、死地より帰る女。
繰り返し、繰り返し、蠱毒の様な十数年の後、醜く肥え太った女の念はやがて父までも呪い殺した。
そして老婆の勧めのままに─恐らくは、初めからそのつもりだったのだろう─、家の実権を奪い取り、2年後。
侍女を伴ってイバラシティへ渡り、幾つかの出会いを経て今に至る。
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(──というのが今回ボクに割り当てられた記録な訳だけど…。 偽物でも自分の記憶だと認識出来てしまう。その生を歩んできた実感、想いがある…。 恐ろしい話だよ、全く) |
そんな回想と感想を胸にしまい込んで、送信したメッセージを見て集まった人間達を見回す。
一之瀬の家に縁のある者と…ちょっとした乱入者が一人。『あちら』に居た頃のような微笑みを浮かべて状況…
メッセージの送信者、一之瀬百の正体が自分である事。侵略が事実である事。戦わなければ生き残れない事。
それらを簡単に説明してやった。
病院坂クライとの約束を守る必要もないが、あの手の輩は約束事には酷く煩い。
恨みを買って邪魔をされては困るし、これで最低限の義理は通した事になるだろう。
まあ、そう簡単に信用できる状況では無いだろうけれど。
提案に乗ってこないなら、何処で野垂れ死のうと彼らの自由だ。
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ツクモ 「名前は…百《モモ》のままじゃ君等がやりづらいだろ? …うん。白《ツクモ》とでも名乗っておこうか」 |
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「ボクの目的は侵略とは無関係…いや、奴らに勝ってもらっては困るのかな。 そういう訳で、縁のあったヒトを保護してあげようって話なんだけど… 君達はどうするのかな?ボクを信じてくれるかい?」 |