
最初の記憶は水の音。
暗い、闇い、何も何も、見えない世界で。
水の音が、水泡の音が、こぽりこぽりと小さく届く。
真っ暗で、何も見えなくて、けれども暖かいその場所が子らは○○○だった。
光が灯る事無く、子らは消えて逝ってしまったけど。
そんな事が何千、何万と繰り返されて、気付けば世界の、宇宙の何処かで小さな小さな虚になった。
針の先の如く、まるで風穴のように。
何にもなれず、望まれず、育まれず。
子らはそういうもの同士で惹き合い、喰らい合い、気付けば虚は大きくなる。
虚はどんなものでも落としていく。
空っぽである事を空っぽだと認識できる程度の、微かな自我のようなものはあったのかもしれない。
だから、手を伸ばすのは、虚の本能だ。
それが似たようなものであっても、何かを持っていたとしても、手が伸びてしまう。
喰らおうと。
――手に入れようと。
虚に何を入れても虚でしか無くなるのに。
うつろで虚しい行為は続いていく。
・
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「――――――」
意識が浮上した。
小さな無数の鍵と、懐中時計と、カチンという無機質な音を鳴らす翅。
水の音と共に、翅以外のものを内包した何かがそこに生まれる。
夢を、見ていた気がする。
長い夢だ。
意識なく望んでいた夢だ。
だが夢からは覚めるもの。
夢は消えるもの。
泡沫のように。
だが、あの夢の世界も、手に入れてしまえば現になる。
あの女性が言っていたのは、つまりそういう事だと理解する。
生まれて、育って、友人を得て、恋をして。
なだれ込んでくる夢の記憶は、まるで、本当にこの手にあったかのようだ。
虹彩の煌めく瞳を閉じる。
夢で得た命は、人格は、記憶は、想いは。
――――現となってくれるのだろうか。
――――形あるものとして、自分は手に入れられるのだろうか。
「…………そらひ」
ソレから、音が零される。
こうして考えられるだけでも、きっと、きっと、少しだけでも。
手にできたのではないかと錯覚してしまう。
錯覚する。
――――――手に入れたと錯覚するその感覚さえ、きっと夢なのだ。
鍵と、時計と、水泡の音を立てながら。
からっぽは、ゆらりと動き出す。
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――――空菊の”姉”――――
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辺りを見渡した。
息を飲んだ。
――視界に広がる様は、知っている街なのに全くしらない場所で。
手が震えた。足が震えた
告げられた事も、頭に入ってくるのに信じたくない思いが湧き上がる。
……それでも、この光景は、現実を叩きつけてくる。
怖いと、思った。
息を、飲んだ。
あぁきっと。以前の自分ならば、こんな風に恐れて震える事は無かったのだ。
いや、震える事は無くとも、意思を持って動けない自分は――
思わず息を飲んだ。
そんな”もしも”の方が、余程怖い。
大きく息を吸って、吐いてと繰り返す。
……空を見上げる。
まずは、確かめなければ。
自分を救ってくれた人が、――
此処に来てしまっているのかを。