
~プロローグ~
―― 気がつくと、見覚えのあるような ないような・・・ 不思議な世界。
目の前には大きな時計台と、ひとりの男。
…ここはどこだ?と思うが、それが言葉にも思考にも表出してこない。
例えるなら、まどろみの中に響く、起床を促す声のように。
意味はある。しかし、明白な意識における理解はされない。
何やら男が説明をしている。。。
結局は、そう。
まどろみの最中にかけられる声は一つしかない。「おきろ」という声なのだ。
このハザマというまどろみの先に何があるのか…そう理解すれば彼の説明も容易いことになる。
つまりは…。
「つまり…そういう事なのか。」・・・知らずうちに、呟きだけが漏れ出た。
~Ⅰ~
ゴロリ という擬音がある。
もう何日もこう寝そべっているが、正直そんな音は出ない。
なんど試しても「ドサッ」とか「ドッ」とかなる。
早くあんな擬音を出せるぐらいにこの畳とも仲良くなりたいものだ。
そんなことを思いながら
今日も、畳に寝そべり天井の染みを見つめている。
そろそろ穴が開くほどと言っていいほど見ているので、
上階の住人(一説にはキャリアウーマン風の美女とも聞く)の姿が見える日もそう遠くないのでは!と思う。
・・・いけねーな。そろそろ這いつくばってでも出ないと、ある講義では単位をとれなくなっちまうな。
そう思うものの、身体には力が入らない。そもそも俺の体に力が入った試しがあっただろうか。
一歩外に出ればいい。だが、その一歩を踏み出す力はとうに枯渇していた。
そして、当時に「これはこれで充実しているような気もするな」と
仄暗く自分を嘲笑ってもいるのだ。。。
大学に進学し、親元から離れて一人暮らしを始めた。
ViVA!バラ色の大学生ライフ!最後の青春!やりたい放題!
などと思ってはいたが、そもそもの目的を考えると
結局無為に日々を過ごしてしまっている。
何故かって?
だって「目的はもう果たしてしまっている」からだ。
『あの家』から、離れて生きる。
それだけでもう十分だった。むしろあとは誰にも後腐れも迷惑もかけず生きて死にたい。
それが俺が選んだ道だ。生きていく道だ。
そう選びとるために、真面目に勉強に勤しみ、親の出した条件を整え、イバラシティに俺は来たわけだ。
まぁ…四択は得意なんだよ、俺は。
そんなこんなで今日も日が暮れ、俺はぼんやりとした日を過ごしたのだ。
~Ⅱ~
ゴロリ という擬音がある。
もう何日も何日もこう寝そべっているが、正直そんな音は出ない。
なんど試しても「ドサッ」とか「ドッ」とかなる。
早くあんな擬音を出せるぐらいにこの畳とも仲良くなりたいものだ。
「あのね、何くだらない事言ってるの?」
そんなことを思いながら
今日も今日とて、畳に寝そべり天井の染みを見つめている。
そろそろ穴が開くほどと言っていいほど見ているので、
上階の住人(一説にはキャリアウーマン風の美女とも聞く)の姿が見える日もそう遠くないのでは!と思う。
「ねえ、馬鹿なの?それに上階の人は、未だに学帽被ったいい歳の司法浪人さんって聞いたよ。」
・・・。
・・・いけねーな。そろそろ這いつくばってでも出ないと、いくつかの講義では単位をとれなくなっちまうな。
そう思うものの、身体には力が入らない。そもそも俺の体に力が入った試しがあっただろうか。
一歩外に出ればいい。だが、その一歩を踏み出す力はとうに枯渇していた。
そして、当時に「これはこれで充実しているような気もするな」と
仄暗く自分を嘲笑ってもいるのだ。。。
「ねえ、お兄ちゃん。どうしたら、そういうよく非生産的且つ、無気力発言をしていられるの?」
「自分で家事の一つもしないで、ダラダラ過ごしたいだけじゃない」
もうどうにも学生らしく、田舎臭さと子供っぽさが抜けない感じの黒髪ツインテールと髪留め。
でも、ちょっとだけ地元では(往々にしてちょっと離れた距離にあるわけだが)可愛いと評判のブレザーに身を包んだ姿の少女が、まどろみの中にいる自分の思想に、いちいちツッコミを入れてきた。
「うるせー杏南。むしろ、高校生の癖にお前は、何ひとんちに入り浸ってるんじゃい!」
俺は、起き様に言い返す。
いつもの日常。そんな欺瞞に溢れた日常は、ある日終わりを告げることになる。
それも俺だけが知る中で。俺が知らない内に。