膝をけりこまれた鈍色は『自分はこのままでは無残に殺される』のだと悟った。
それが観衆の願いだとも。
彼女を何度も抱いた男たちさえも。
自分のお気に入りの命の炎が消えるかもしれない瞬間に後ろ暗い気持ちで興奮していた。
生きるだめに抱かれてきたのにその終わりがこれだなんて。
先ほどと持ったものとは違う感情がめらめらと噴出す。
吹き飛ばされれるまえに橙の髪をつかんで踏みとどまる。
どうしてだか、どうすればいいのか。本能が叫ぶ。
橙の奴隷がなぜ花形なのか。それはうわさに聞いていた。
相手を噛み千切りながらいたぶる姿はショーに映え、また奴隷たちには恐怖を与えると。
見てなさい大人たち。
腕がつかまれれる。少女の口が開く。
その喉……肩口とも呼べる部分に噛み付いたのは――鈍色の奴隷。
鋭くない歯は皮膚をかすかに破るだけ。突き飛ばされて距離が開く。
後は凄惨たる有様だった。
つかめるところには爪を。立てられる場所には歯を。顔が開いてれば目を狙い。
泥沼の中で少女たちは傷ついていく。
それでもどこかで、鈍色の少女は興奮の中に愉しささえ見出していた。
こんなものがあるのかと。
「うん、いいね。買おうか」
キャットファイトに進展がないことに不満の声が上がる前に立ち上がったのは金髪の女。
「お客様、今は「ばかっその方は「なんだぁ?」
「ねーちゃんがストリップでもしてくれんのか?」
突然変わった空気にざわつく会場。視線を受けてもなお堂々とした女は鈍色の少女に視線をやった。
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困ります、なんだ?、今晩の目玉が、死ななければまだあれには価値が
「あー、うるさいわね」
金髪の女は億劫そうに髪をかきあげる。
青い瞳が妖しく光る。それで十分だった。
その場にいた人々は一瞬硬直し、性別問わず近くのものと深い口付けを交わしだす。
青臭い熱気が場を支配する。
「けりくらいはつけておきなさいよ」
女が髪をばっと振り乱すと鈍色の少女の中に暗い欲望が芽を出した。
いや、それは最初からあったのかもしれない。
体中を走る痛みが心地いい
御礼をしなきゃ。
金髪にとびかかった橙の首に手を伸ばした。
闘技の奴隷が動かなくなるまで、そう時間はかからなかった。
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性別関係なく銜えて舐めて交わる狂った金持ちたちの宴を金髪と奴隷は後にする。
「あの……あるじさま、なにを?」
おずおずと切り出した少女に金髪の色欲は笑って見せた。
「なに、きみを次の席にすえようかと思ってね」
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そうして奴隷は色欲見習いになった。
名前はいずれ失うと与えられなかった。