──引き金を引く。≪熱量変換≫のイメージ。
私の異能の発動は、いつも"引き金"だ。
例え編み上げたエネルギーを射出しようとも、
何かを温めるべく熱運動を働きかけようとも、
光を生み出そうと、熱量を練ろうとも。
全てが全て、引き金を引いてつくる。
────わたしの力は何かを傷付けるだけのものなのだろうか。
そうじゃない、そう言い聞かせて今まで生きてきた。
でも、誰かを穿たないのなら一体引き金を引いた銃口の先には何があるんだろう。
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ぐらりと視界が揺れる。そうして数週間分の"向こう"の記憶が入ってくるたびに、少し──疲弊する。
分かっている。向こうで楽しくやれていればいい。その方が幸せだ。
友人が、本当はこの世界のものではないと知ってしまうのはこっちでだけでいい。
寧ろ──、その友人たちと。面と向かえる分、こちらの方が良いのかもしれない。
…………流石にそれは皮肉が過ぎる。
わたしは────ただ、日常が過ごせればよかった。
学校に行って、部活動に励んで、勉強して。そのためにヒトに必要とされる自分を、──きっと演じている。
ああ、でも──…………足りない。
存在証明が、たりない。自分に求められているなにかが欲しい。
こんなにも世界は豹変したというのに、私はどうしても変われない。昔から、同じことのくりかえし。
真っ当な人間になるという母の願いでもいい。
頑張ったら褒めるという承認欲求を満たす装置でもいい。
人がやりたくないことをやれるボロ雑巾でもいい。
………わたしという人間が求められて、それで、ようやく人間になれるのなら。たとえ鉄片を飲んだっていい。
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寧々 「 ……………。……わかってる。」 |
彼の方がうまく人を支えられる。 あの子の方がきっと効率よく勉強を教えられる。
彼女の方がきっとしっかり褒めてあげられる。 あの人の方がもっと上手に人を率いてくれる。
誰かの方が、しっかり愛してやれる。
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寧々 「 ……わかってるよ…………。」 |
それでも、それでも……奈切寧々を形成させてほしい。────わたしの存在証明をさせてほしい。
………………。…………。
いつからこんなにもわたしは傲慢になってしまったのだろう。
────いや、違う。元々奈切寧々は我儘で、そのくせ弱くて、人に手を借りなければ立てないだけだ。
そういえば、1つ大人になったはず。
ここでのわたしも同じように歳をとっているのかは分からないけど、その記憶があるのだからそういうことにしておこう。
いつもと何ら変わらない誕生日だった。知らぬ間に迎えていて、日付が変わる前に思い出したか否か。その程度。
ロウソクのたてたケーキを食べなければ大人にならないのだろうか。
人に祝われて、リボンの飾られたプレゼントを貰わなければ歳をとらないのだろうか。
それなら、このままでいいのに。それなのに、周りは刻一刻と変化していく。
そのスピードについていけなくて、息切れして──すこし、くるしい。
────いっしょに大人になるって約束したくせに。
成長して、わたしの新しく芽生えた欲求はすべて子供じみたもので、
きっと子供の頃に遂げられなかったものたちが今になって顔を出しただけ。
これをどうにかせねば、おとなにはなれないのだろうか。
必要とされたいだとか、応えてほしいだとか。最善じゃなくて最良が欲しいとか──
駄目だ。よくない。わたしが、こわれる。────やはり一度とて愛されなければ良かった。
色んなものを愛して、存在価値を得られるだけで、未完成なままの自分でいたほうが楽だった。
行き過ぎた感情はマイナスにしか作用しないことを、あの時知ったはずなのに。
………ああ、いらないことは全部忘れてしまいたい。
────────また、だきしめてほしい。