荒れたアスファルトの道を進む。
今回も気付けばミラン達はハザマにいて、こうしてヒノデ区に向けて歩いていた。
どういう仕組みなんだか…と考えても埒が明かないことは分かっているが、心の中で舌打ちする程度なら許されるだろう。
この辺りは、イバラシティだと確かそこそこ大きな公園があった辺りだ。
このまままっすぐ進んで川を超えればヒノデ区との境目が見えてくる…はずだったのだが。
(……おいおい…こういうのもアリなのかよ…)
今進んでる道はチナミ区からヒノデ区へ向かう大通りである。
しかし視界の先ではアスファルトの荒廃が激しくなり、さらに先では崩れて山道に呑まれていた。
幸いなことに見たところ、それほど険しいようには見えない。反対側の地形が確認できないので確かなことは言えないが、余程切り立った崖になっているとかでもなければおそらくは1時間程度で踏破できるだろう。
逆に、ここを通らなければ、ヒノデ区へ行くにはカミセイ区からウシ区を回る大回りなルートになってしまう。
ちらりと傍らの少女へ視線を投げれば、やはりその表情はひどく不安そうだ。
こっそりと息を吐いて、ミランは自身の短い金髪をかき回す。
(迂回する余裕はなさそうだな…)
本当なら、一般人を護衛するなら安全優先で慎重に慎重を重ねるくらいで丁度いい。
しかし同行する少女は普段と異なる状況でただでさえ余裕がない。真面目な性格ゆえに今は堪えてくれているが、今後もこういった緊張状態が続いてしまえば思い詰めて単独行動に出るなどの思い切った行動をとってしまうことも予想できた。
そもそも、彼女がBANKAでバイトをするようになった経緯からして、その真面目な性分ゆえの暴走を懸念してのことだ。身内の安否がかかるともなれば、今までの漠然とした不安とはその質も許容量も比べるまでもないだろう。
(まぁ、迂回したところでここより険しいルートにならないって保証もないか)
これだけ地形が変わっているのだ。他の地域も何かしらイバラシティとは大きく変わっている可能性が高い。
であれば、踏破できそうな今のルートのまま、一気に進んでしまった方が色々負担が少ないだろうと判断し、ミランはそのまま歩を進める。
「サツキちゃん、今日はこのまま一気に山越えるよ。足元気を付けて。館長、いざとなったら抱えるから大人しくしてくれよ?」
はいと返事を寄越す少女と、分かっているのかいないのか分からないペンギンの雄叫びを背に、ミランの足は砂利の混ざり始めたアスファルトを踏みしめた。