ケリ
いきなりの大一番、決着がつかなかったことは喜ぶべきか、悲しむべきか。判断困るところではあるが、いずれにせよ釈然としなかったであろうことだけは想像に難くなかった。
ああいう身内の敵っていうのはもうちょい盛り上がるべきところで出るべきであって、父親(偽装)との先の一幕は刹那主義の一栄斗としてもちょっと真顔になるくらいの事態だったのだ。
……いや、正直少しくらいダメージはあった。そこは認めよう。だからこうして茶化しているのだし。
一人の時に出会った十神十といい、先程のぼんやり親父と露出狂部員、有名人の居候入居者といい、何だか見る奴見る奴知った奴なのには無神論者でもちょっと神の悪意を感じた。いや十神十ではなく。
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連合いの一人、奈切寧々謹製の唐揚げ弁当(素材は考えないことにした)を掻き込んで草臥れた体に栄養を注ぎ込む。一先ずの目標として定めた中継地点まで半分は越えただろうか。全く気長な道程だ、うっかり駆り出されたひ弱な連中はさぞかし難儀していることだろう。
真っ先に思い浮かべたひ弱代表のグラサン中二病の顔に、ついつい顔を渋くして頭を掻いた。連絡もあったし実際また会うのかもしれないが──連れ合い二人は果たして、こちらで決めた結末に触れないでいてくれるだろうか。
「……ま、それならそれで優しい話か」
呟き、食後の休憩がてら上空に投影される『Cross+Rose』にアクセス。溜まっていた返信を消化していく。内容は心配性が多め、お前なら大丈夫だろうと投げっぱなしの信頼がその半数ほどに添えてある。……これで俺が裏切り者だったらどうするのだろうと、そんな疑念が頭の隅にこつりと落ちた。
戦争の現状、楽しいか楽しくないかで言えば、一栄斗の感性は前者に振れていた。心配してくれた連中には悪いが、杞憂という奴である。
とは言えそれは暴力に対する欲求の捌け口がそこら中に転がっているからのことであり、そう長持ちするものでもないことは自覚済み。それに飽きたら賽の河原の真似事くらいしかすることのない世界は、住民たちの苦悩をありありと想像させた。
ご愁傷様。感想は以上。だからってこっちまで巻き込むなという話だ。
小さな瓦礫を蹴り飛ばす。思索と一緒に纏めて飛んで行って、あとは異世界観光だけが残った。
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現在地はチナミ。あんまり覚えのない街だったし、森林地帯まで出来上がっていよいよ未開の土地と化している。すっかり木の根に呑まれたチェーンのコンビニは何だか神殿めいていて、飛び出してくる妖精や足の生えた草束が絵本の住民みたいに見える。
罅割れたガラス越しに店内を覗く。推測通りというか全滅だ。この世界は一体どういう経緯で生成されたのか、興味は絶えない。具象化した可能性の分岐か、酷く劣化した模倣品か。こんなにもぶっ壊れた世界だから、理由ももっとぶっ壊れているかもしれない。
そんなぶっ壊れた世界で、またも流入する真っ当で偽装された日常。
今回のは幾らか平坦で、溜め息一つくらいで咀嚼は済んだ。向こうでは暢気に花見をしているらしい。こっちは雑草くらいしかないのに。
あいつ花咲かせねえかなあ、なんて考える。
Q.捕まえて簀巻きにしてそこらに埋めれば綺麗な花を咲かせるでしょうか?
A.育てる時間なんてない。
自問は自答に一蹴されて、あっけなく散って行った。
……さっさと終わんないだろうか、この戦争。