かちこち。
どこかで聞いた時計の針の音が、今もまだ、耳の中に響いている。
戦闘の後、そのままずれ落ちかけていた眼鏡を持ち上げる。
本当は、こんなものいらないのだけれども。
……別に、目が悪いわけではなくて。ただ、「誤魔化す」ためだから。
ああ、何もかも誤魔化してばかりだと苦笑する。
別に、自分と共に歩んでくれている三人には誤魔化す必要なんてないのかもしれないけれど、全てを晒してしまうには、まだ、啼鳥小夜は少しばかり臆病だ。
かちこち。
耳の奥に響く針の音は、しんと静まり返った「かつての自室」の時計の音を思わせる。
かつて、自分がいた寮には、なんだって揃っていた――と、思っていた。実際には今の自分が享受しているもののうち、どれだけ揃っていただろう。とにかく当時の自分は寮と、学園だけが世界の全てだった。
全てだと、思い込もうとしていた。思い込むことを望まれていたから。
ある日、親は今にも泣きそうな顔で言った。「あなたをそういう子に育てた覚えはありません」と。
ある教師は穏やかな笑みを浮かべて言った。「大丈夫ですよ、すぐにあなたも皆と仲良くなれますから」と。
そうして、鳥篭のような学園へと導かれた。
まさしく鳥を思わせる声できゃらきゃらと笑う生徒たちと共に、学生生活を送っていけば、きっとあなたは「模範的な」生徒になれると教師は笑った。何せ成績だけはよかったのだ、きっと、期待されていたのだと振り返ってみて思う。
皆と同じように授業を受け、皆と同じように食事を取り、皆と同じように眠る、日々。
そうすれば皆と同じようになれると、――周りは信じていたし、自分だって信じたかった。
けれど、結局は日々を過ごしていくうちに、ぼんやりとした言葉にならない違和感を、確信に変えていくことにしかならなかった。
ああ、自分は。
この学園に集った「少女」たちとは、どうしたって別のものなのだ。
かちこち。
時計の針は止まらない。だから自分はここにいる。
自分の場所でありえない鳥篭の扉を蹴破り、広い世界に飛び出して、今、ここにいる。
今、ここにいるために。これからを、勝ち取るために、武器を取る。
自分自身の在り方は理想には遥かに遠く、それでも、理想に手を伸ばし続けるために、戦う。
啼鳥小夜は「少年」である。
――その、生まれ持った体を除けば。