「ナレハテ」とかいうバケモノは、まあフツーに殴り倒せるヤツみたいだった。…手応え、最悪だったけど。あたしの異能は殴ったりするのの代わりに使えるヤツじゃないからどーしよーもない。
………ちょっとこれ、一人でやり続けるの考えたくないなぁ…「団体戦」になっちゃった以上しょーがないけど。
…ホントは、協力出来る人がいたらよかったんだけどね。異能を使って戦うことを考えると「擬態」は続けられないから、学校関係の知り合いは頼れない。ライブハウス方面の知り合いは…ちょっと、こういう場で信頼できるタイプの知り合いは、仲良くしてるスタッフさん達くらいしか思い当たらない。おまけに最近、ミョーに治安悪いし。
絶対に負けたくない。でも、そもそも戦い抜くこと自体が出来るのかどーか…。
不安なあたしが「次元タクシー」とやらで降りたのは、地元のチナミ区に似てるけど、荒れ果てた場所だった。
歩き始めたのはいいけど、荒んだ世界で何が飛び出してくるか分かんなくて、不安で…
…この時自覚したんだけど、あたし、ビビると足元が疎かになる悪い癖があるみたい。ビミョーな段差があったらしいとこで、思いっきり膝からコケるはめになっちゃった。痛いわ間抜けだわでもうサイアク…と思ってたんだけど。
「……大丈夫か?」
手を差し出してくれる男の人がいたの。黒髪で眼鏡をかけた、神父服の人で…なんか、顔と声に覚えがある気がしたんだよね。
優しい感じに話そうとして…ちょっと上手くいってない感じも合わせると、どーも変な感じがしてたんだけど…いかつい感じの顔がちょっと怖く感じるくらい、真剣にあたしの心配をしてくれた。
多分敵じゃないとは思うんだけど…「知らない」人のことは、分からないから。あたしは、せめて自分の臆病さを大事にする方向で、勇気を振り絞ることにした。
「あの、こういうこと確認するの、失礼かなとは思うんですけど。でも、こんな「団体戦」に巻き込まれた以上、そうもいかないんで。
………「守る方」で、合ってますか」
失礼かもしれないと思ったけど、相手はあたしを特に咎めたりはしなかった。むしろ、何か変な動揺の仕方したり(一瞬口調が荒れた。むしろそっちの方が自然そうだった)、みょーに自信なさげだったりする。
…荒れた言葉遣いの方が多分本性なんだろーなぁ、あたしの苦手なタイプなんだろーなぁ…とは思ったんだけど、誤魔化し方が下手だとそれはそれでなんかぞわっとするね。今までになかったことだから分かんなかった。
「こんな小娘相手に慣れない言葉遣いまでして、気を遣わなくていいですよ。
無理に取りつくろわれてるほーが、かえってキモいんで」
失礼な物言いを重ねてる自覚は、ないわけじゃない。
でも、こんな不自然な誤魔化しを何でやりたがるのかが分かんないのも、怖いから。
…相手は、不自然なくらい怒ってこなかった。
「……怖がられても、めんどくせぇと思ってよ。」
…それに、誤魔化そうとしてた理由が変だった。
今の状況でビビってるのが振る舞いに出てただろうとは思うけど…それを差し引いても、あたし、「怖がらせたくない」と思わせる見た目はしてない自信がある。
そんなあたしを、何で目の前のこの人は「怖がらせたくない」と思ったんだろう…?
疑問が頭の中を巡って…そして、あたしはこの人…いや、「コイツ」に何で「覚え」があったのか分かった。あたしがビビリだって知ってることまで、全部辻褄が合った。
………でも、今度は逆に、どーして「ソイツ」があたしの心配をしたりするのかが分かんなくなった。同じ陣営なら積極的に攻撃してこないのはまだ分かるけど…心配まで、する?
あっちも、あたしがそーゆー疑問を持つのは分かってくれるみたい。
「上手くは答えられねぇけど、あん時怖がらせっちまったし、あん時も今も、お前にゃ戦う手段みてぇなのがねぇように見える。
…それと、信じなくても構ぁねぇが、俺がぶっ殺した4人は、アンジニティの化け物野郎だ。
……これで満足か?」
…「アンジニティ」。実際にこうなるまでは、「踊らされて暴走する人間の方が怖い」と思ってた、他の世界。そして、その住人達。
ハザマなら本当の姿を見せるらしいアイツらを、目の前の男はあっち(イバラシティ)で見分けられるみたいに言ってる。
しょーじき信じらんないし…仮に信じたとしても、やっぱりその行動はあり得ないと思う。…少なくとも、あたしにはムリ。
…ただ、コイツは「あの時」あたしを怖がらせたことを気にしてて…だから、そんなに悪いヤツじゃないのかな、とは思った。そんなこと気にするよーには…少なくとも「あの時」には見えなかったんだけど。
だから「意外」って言ったら…やっぱり怒らない。なんか苦笑いされた。
「ん?あん時は正直、通報しやがったな糞が!としか思わなかったけどよ。
考えてみりゃ、怖がって当然だったしなぁ。そんな意外か?」
いやだって、金髪オールバックの「殺人犯」がそんなこと気にするなんて思わないじゃん。って言ったら、なんか能天気に笑われたんだけど!あたしがどんだけ怖い思いしたのか、ちゃんと汲んでくれてるのかなー…。
…でも、その後真面目な顔になって、コイツはすごいことを言い出した。
「で、モノは相談だがよ、助っ人とか、必要ねぇかな?」
あまりにも意味分かんなくてぽかんとしちゃった。すっごい間抜けな顔してたと思う。
だって、ナレハテだけじゃなくて「あっち」側のヤツらもまとめて「化け物」呼ばわりするようなヤツがさ、戦い慣れない人間の助っ人なんかやってる暇があるよーに思えないもん。
「………あの。しょーじき、いろんな意味でありがたいですけど。
あなたにメリット、なくないですか?あたし、物理的な不利を「直接」ひっくり返す力は持ってないですよ…?」
「…得があっかどうか知らねぇが、別に損もねぇだろ?
逆によ、このままお前を置いていっちまったら、ぶっ殺されっちまってねぇかとか、気になって仕方ねぇや。」
…何だろう、「あっち」側への敵意は間違いないと思うんだけど、それよりも目の前のあたしへの心配が勝ってる…いや、そこを天秤にかけるって感覚すらもしかしてない?恩着せがましい感じも全然しないし。
…これ、確認しとかないと後でめんどくさいことになったりしないかなぁ。
「いや、あたしこんなんなんで、フツーに足引っ張るかもしれないですよ?
………まあ、それよりも気がかりさの方が上だってんなら、ありがたく助けてもらいますけど。
…実際にこーなっちゃったなら、「団体戦」に負けたくはないんで。一人で戦うよりは、まだやりようあるかもしれないですし」
…目の前の男は、あたしなりの「意気込み」を聞いて、笑った。足を引っ張るとか、まるで気にしてないみたいに。
「そらぁそうだ。アンジニティだか何だか知らねぇが、叩きのめしてやらねぇとな!
……ってワケで、この話、乗るかぁね?」
それから、手を差し出してきた。今まではあたしがコケた時だったけど、これは、多分…。
「あたしは、あたしが今いる場所を守りたいんで。
…色々メーワクかけちゃうと思いますけど、よろしくお願いします」
握手のつもりで手を出してみたら…言動が荒いのは伊達じゃないってゆーか、すごい手。こーゆーゴツイ感じの手とは縁がなかったから、ちょっと緊張しちゃった。
「だよな。俺も同じだ。
どうでもいい奴も居るんだが、ダチやら知り合いくれぇは、守らねぇとな。」
…その辺、あっちはお構いなしみたいだけどね。
「…よろしく、お願いします」
「こっちこそ、よろしく頼むぜ。
で、俺の名前はもう分かってんだろうけど、植井登志郎だ。
そっちの名前も聞いていいか?お前って呼び続けても構ぁねぇけど。」
あたしはニュースであっちの名前やら何やら知ってるけど、あたしは平凡で無害なJKだもんね。
…こっち(ハザマ)の記憶はあっち(イバラシティ)ではなかったことになるらしーけど、流石にフルネーム名乗るのは怖いかな。「擬態」モードと繋がってもめんどくさいし。
「…はい…知ってます、植井さん。
…あたしは、リンカです。
どうせ名乗らなくても「お前」って呼び続けるくらいなら、苗字はいいですよね」
「あ、いや、出来りゃお前呼びはやめてぇんだが……リンカ、な。
お前もアレだ、無理な喋り方しねぇでいいぜ?
呼び方だってどうでもいいしよ、気楽にいこうや。」
あっちからそんな提案も出たけど、気楽に、ねぇ…「あの時」から考えると信じらんない距離感。
この程度の雑な丁寧語で「無理してる」と思われるのも癪だけど…。
「あー、このくらいなら全然ムリしてないんですけど…あ、でも戦ってる時にこのノリだとカッコつかないかなー。
…じゃ、お言葉に甘えさせてもらっちゃお。どーせそんなに歳離れてないもんね」
…まあ、カッコのつけ方とか、その他もろもろを総合的に考えると、タメ口の方が色々と楽か。
そんな感じのみょーな偶然で、幸いあたしはこっちで一人にならずに済んだ。
とりあえず歩き出したのはいいけど…トーシローってば、周りを気にせずずんずん進んでっちゃうから、周りを気にするあたしとちょくちょく距離開くわ時々変なとこに突っ込みかけるわでホンット先が心配。
………それでも、こんなとんでもない「団体戦」を、一人で続けるよりは、ずっといいけどね。
戦いの中で、あたしに何が出来るか…あたしの「力」をどう活かせるか、考えておかないと。
(PL/時系列としては第1回更新の移動時辺りなので、第1回から第2回の間の各種ロールは反映されておりません。次回以降にゆるくご期待下さい。
流れを合わせて下さったPMの植井登志郎(858)さんに感謝を。)
~オマケ~
「……ってかよ、気付いてんなら言えよアホ!恥ずかしいじゃねぇか。」
「いや、見覚えあるかなーどうかなーとは思ってたんだけど、ちょっと自信なくて。
「苦手なタイプの男が何か間違って聖職者として振る舞うべく頑張ってんのかな」くらいまでは分かったんだけど…しょーじき、全面的に地出されなきゃ分かんなかったと思う」
「これだけ色々変えてっからよ。一目でバレっちまったら意味ねぇやな。
……っても、結構分かっちまぁモンなんだなぁ。お前が鋭いだけか?」
「んー…どーだろ。
人の見た目とかその効果なんかは気にする方だけど。自分のも他人のも。
額から眉にかけてのいかつさ、けっこー特徴あるよね」
「確かに、怖がられっちまぁコトは昔っから多いけどなぁ。
でもよ、そんな特徴あっか?お前がビビってるだけじゃねぇの?」
「………そ、それはそれで否定できないけど!でも、男の人って眉骨とか発達しやすいんだよ!?おまけに眉間にしわ寄ってるし!」
「んー…そう言われっちまぁと、確かにそうだろうなぁ、とも思うんだよなぁ。
こっちじゃ別に良いけどよ、あっちじゃ、問題だしよ。」
「………前髪作ったら、もっと誤魔化し効くんじゃない?」
「前髪ねぇ……まぁ、けっこう長ぇからできねぇでもねぇけど。
教会じゃぁ、化粧しろとか言われたっけなぁ。」
「あ、化粧いーかも!
「顔を立体的に見せるテク」があるんだから、「顔の立体感を薄めるテク」もあるはずだし。あたしは知らないけど」
「いや、ココでやられたって何の意味もねーんだけども。
出来るならあっちでやってもらえっと助かんだけどなぁ。無理か。」
「んー…ムリ、かな。
今アンタがどこにいるか知らないし、知ったとしてもその秘密を抱えとける強さが自分にある気もしないし。
こーゆー話するだけなら気楽なんだけどなぁ」