犬屋敷は寿司屋仲間と合流を果たす。
この荒野の中、自分たちが出来る事は何か?
方針としてはとりあえず寿司タワーを見に行くつもりだが――
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(もっと出来ることがあるはずだ……) |
この荒廃した大地――そう、寿司のない大地。
この世界に寿司を広げる事が、今自分に出来ることだ!
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店長 「この世界で――寿司をやるんだ!!」 |
一方七坂たちは。
……息を整えた魚紙は横たわる七坂を見る。
事前に彼の家の者から「もしかしたらアリカくん、生き返るのが苦手かもしれないから」と助言を受けていたが、まさか本当にその懸念が当たってしまったことに魚紙は(それはとてもとても久しぶりに)困惑していた。
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魚紙 「(生き返るのが下手な人っているんだ……)」 |
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七坂 「……」 |
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(イメージ……イメージ……身体に入るイメージ……) |
上体を起こす――肉体はまだ横になったままだ――魂だけが起き上がってしまう。
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七坂 「ああ~~~幽体離脱なんてしたことないから戻り方がわかんないよ~~~」 |
反魂の札やらなんやらを周りに置いてはいるものの、七坂は絶望的に才能がないらしい。
そろそろ10分近く死んでいるのではなかろうか?
息を整え、状況を整理した魚紙に空白の時間が訪れてしまう。
身体から出るナイフを収める事もできず、思考を反らすための命令もない。
少しずつ呼吸が荒くなり、目の焦点はどこか遠くへ散り、封じてきた"考える"という行為が魚紙の脳を掴んで揺らす。
チャットに流れてきた各家の情報を魚紙は意図的に見ないようにしてきたが、ついに名前を探してしまう。
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(ずっと昔、幼稚園の頃だった。) |
両親から虐待を受けていた魚紙を心配してくれた人。
"坂"の家から遠くなった自分の家と唯一接点のあった、独り者の女性だった。
寒い日に家を追い出された時に泊めてくれてくれたあの人。
唯一子供の頃の自分を知っていた家族以外の大人。
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(りんねおばさん……) |
リストから彼女の名字を探す。
探さないほうがいいんじゃないか。
無事だったらきっとどこかで会えるから、今は余計な事を。
名字があった。
名前を探す。
もし侵略者だったら。
見ない方がいいんじゃないか。
心臓が魚紙の薄い身体を殴りつけるように動く。
名前があった。
「初坂 輪廻 非ず」
非ず。
家のものに非ずという端的な情報がそこにあった。
身体の末端からざっと血の気が引いていくのを感じた。
世界が遠くにあるように思え、眼の前にある文字の意味が頭に伝わらなくなっていく。
魚紙の過去はどうしようもなく現実だった。
もしかして自分は侵略者で、両親なんていなくて
(もしかするともう少しマシな人生があったかもしれなくて)
そんな事を思いもしたが、僅かな温かい思い出こそが嘘だったという事だけが真実だった。
(ああ、自分は本当に一人だったのか。)
ぼんやりとした思考の中で自分の声を聞いた。
七坂の家に保護されるまで、仕事をもらうまで、自分は本当に。
誰にも必要とされていなかったんだ。
PL / elec.