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音のない家。
家族がいるのに?
何故だろう。
いつからこんなふうになったか。
覚えていない。
思い出せない。
でも、それでいいと思ってる。
だって私には、クロがいるもの。
――――――――――
パソコンのディスプレイに映る、匿名掲示板の数々。前に比べて、最近はかなり数が増えた気がする。だからと言って、また少しずつ飽きられて数を減らしていくのだろうけれど。
特に私の興味を引くものはなく、タスクを終了させてそのままパソコンの電源を落とした。
それに気付いたのか、黒猫のクロが足元にやってきた。どこかに行くの?と言いたげに私の顔を見上げている。
ええ、今日もまたどこかに行きましょうと言葉をかけ、クロを連れて部屋を出た。
家の中はしんと静まり帰っている。勿論、父親は仕事だけど、母親は家にいる。
なのに、静か。結果として、私の部屋と廊下以外は埃を被っていたり、汚れていたり。掃除する人がいないのだから当然ではあるけど。
私は何も言わず、クロと共に家を後にする。
外は外で、只々人が多い。正直息苦しいくらい。
でもそれくらいなら私は良い。問題は自動車や自転車、猫にとって危険極まりないもの。
なくなればいいのに、と思うところはあるが、結局のところ私も文明に頼り切っているのは事実だった。パソコンとか。
……兎も角、猫にも住みやすい場所を作ってほしいものだと思う。
さて、食料を買い出しに行きましょう。
と言っても、最寄のスーパーなのだけれど。
中はやや肌寒い。食材を扱っているのだから、当然といえば当然ではあるけれど。
そして何故かついてきているクロ。とはいえ、誰も気にも留めないから、私も特に何か言うわけでもない。
買うものはいつも変わらない。キャットフードと一日分の自分の食べ物、それと飲み物。……家の冷蔵庫は、私は使っていないから。
そのまま会計を済ませて、スーパーを出ようとする。
そして、あらゆる方向から感じる視線。
何をしたわけでもない。何かされたわけでもない。
なのに、私は多くの視線を避けるようになっていた。
――駆け足で、その場を後にした。
照りつける太陽、普段より重く感じる足、距離感を失いつつある道。
ふと足元を見れば、クロがこちらを心配そうに見ている。
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=Nomed_G_C&file=60ankoIC01.png) |
あんこ 「……大丈夫、私は、あなたがいれば大丈夫だから。」 |
そう言って、またゆっくりと足を進める。
また、普段と変わらないはずの一日が過ぎていく。