Once Upon a Time
──“昔々、あるところに”。
『──と云う切り出しは物語の常套句だけれど、さ。
ものがたり
実際のトコロ、この“侵略”、上手くいくと想うかい? “僕”よ』
ここではない、どこか。今ではない、いつか。
暗い、昏い、地平の果てを、ぼうやりと眺めながら。
“彼”は、問う。
(……知らないよ、別に。
その益体のない雑談は、今必要なモノなのかい)
返す視線は、冷ややかに、彼を見つめて。
──“彼”は、そう。
当たり前のように、“会話”を、紡いでいた。
『冗句さ冗句、そう冷たい目で見ないでくれよ。
どうにもまだ、“あちら”の記憶が抜けきっていなくてね』
呆れたように、目を竦める彼。
おどけるように、溜め息をこぼす彼。
ごく、当然のように。
まるで、“先ほどまでのことなんて、何も記憶がないように”。
愉快そうに会話を弾ませる──“彼”は。
(だから止めようって云ったんだよ。“あんな器”を創るのは。
僕たちが“あれ”の中に入れば、どうなるかくらい検討は付いただろう)
『なかなか面白い冗句じゃないか、“僕”も。
出す口は僕が預かってるんだから、入れられる茶々なんてないだろうにさ』
(……良く言うね、“僕”も。
“視線を感じた”事なんて、ありもしない癖に)
誰の姿も、留まらない。誰の声も、届かない。
“狭間の世界”の、始まりで。
ふたり
ただのひとり、ゆっくりと、問答を重ねてゆく。
『そこはお互いさまって奴だろう。“僕”。
“僕”は“そういうもの”なんだから、言ったところで仕方がない、無益な争いだ』
(──“仕方がない”、か。
そうだね、これは無為な争いだ。そこは同意するけれど)
『そうさ。“仕方のないこと”なんだ。
僕が、こうして生まれたのも。僕が、あれを創ったのも』
目のない“彼”が、謳うように、口を開く。
それはまるで、舞台演劇で、ようやく自分の出番が訪れた。
歓喜に満ちた、役者のように。
『──佳いかい、“僕”。
role
世の中には、得てして役割と云うモノがある』
(僕が居て、“僕”が居て。
“この世界”があって、“あちらの世界”があって)
観客はいない。 まだ、誰もいない、孤独な世界。
ひとり舞台のひとり芝居を眺める役者の視線は、まるで。
失望の物語を描いた台本のように、ただ静かに。
『……そう。そう云うコトさ。
全ての人間が影法師であるのなら、世界にはすべからく台本があると云うコト』
(そうだね。逸脱することは赦されないことだ。
異端こそが、世界の悪徳の始まりだ)
『“器”の僕も、云っていたじゃないか。
“原罪”がなければ、“天使”は“人間”にはならなかった』
(……妙な言い回しだね。本当にそれは“僕”なのか疑問だけれど。
けれどまぁ、概ねにおいてその通りだ)
誰の視線もない。誰のこえも届かない、始まりの世界で。
“彼”は“ふたり”。本番前の、読み合わせをするように。
『──では“僕”よ。ここで問いのいちだ。
もし仮に、“世界”そのものが、“異端”であるのなら。
僕たちは“それ”を、“どう”するべきだろうか?』
(……問いになってないよ。“僕”。
“在るべきものは、在るべきところへ”。
“異端”が“悪徳”だと云うのなら。
Just Justice
“適当性”の確保こそが、“正義”の命題であるべきだ)
『そうだね。それは仕方のないことだ。
けれど、それは“世界”を敵に回す道だよ?
それでも“僕”は、役者に徹するべきなのかな』
(回答拒否。
“世界を敵に回すために、僕は生まれたのだから”)
弾む、跳ねる、愉快そうな、こえの彩。
読み合わせと呼ぶには、些か感情の篭ったその声は。
きっと、どうでも良いのだろう。
観客なんて居なくても。 誰に理解されずとも。
『──あは。 あっは。
そうだね、その通りだ。
“世界”なんて前提、最初から必要なかった』
“観客”は、ここにいて。 “理解者”が、ここにいるのなら。
(そうさ。
だって、“世界”は、“ここにある”のだから)
あとは、ただ。 演じ終えるだけの、物語。
(──さぁ、始めようか)
『あぁ、始めよう──』
そう。 だから。
これは、きっと。
『誰にも、触れられない』 「誰にも、触れさせたりしない」
(僕たちの) (僕たちだけの)
『(
A
侵 生N
G
略 存I
N
戦 協I
T
争 奏Y
を
』)
curtain call
──閉幕