──星は冥きを照らすモノ
故に彼の地に救いの手を
流れ墜ちて 燃え尽きるその日まで
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流れ星は、墜ちる先を選べない。
光満ちる世界のソラを翔けた星々は
誰の目にも留まらずただ燃え尽きるのみ。
だからこそ、その澱みきった昏いソラを見て
私は確かに高揚していたのだと思う。
誰かがこの光芒を目にしたのならば
それは確かな希望になるに違いない、と。
私がこのセカイに『墜ちた』のではなく
『堕とされた』と理解するのは──
それからずっと、ずっと先のこと。
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「他人に甘えるな、自分を甘やかすな」
頭上から聞き慣れた言葉が降ってくる。
僕は俯き、手を膝において、じんじんと痛む頭で
何度も、何度もその言葉を反芻した。
──『先生』は厳しい人だ。
自分にも、他人にも、実の娘にだって。
別に機嫌が悪いわけじゃない。いつもこうだ。
『先生』が僕を叱るには明確な基準があって、
ただ僕はその境界を探るのがうまくなかった。
「もう一度最初からやりなおし。
一度で理解しなさいとは言いません。
ただし、二度目は一度目に劣らないように。」
鍵盤に指が触れる。
今日一日休まず弾いていたというのに
その感触は未だ冷たく、硬かった。
まるで、拒絶されているみたいだ。
余計なことを考えてしまった所為だろう。
僅かに音が乱れた──
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「『神秘』って何ですか?」
ずっと昔、私は▇▇にそう尋ねたことがある。
▇▇は少し困ったような顔をして答えてくれた。
「例えば、キミたちは『星』だ。
これは間違いのない『真実』で、
キミたちもそれをよく知っている。
人間はどうだろう。
彼らはキミたちのことを知らない。
では、人間は『星』のことを何も知らないのか。
そんなことはない。
彼らは彼らで『星』に準えた物語をたくさん、
もしかすると▇▇よりもたくさん知っている。
彼らにとってはその物語こそが『真実』だ。
キミたちの知るセカイと彼らの知るセカイ。
そこには『真実』の差異が存在する。
どちらが間違いということもなく、
異なる『真実』は同居することができる。
『神秘』とはその境界たる『未知』のことだ。
異なる『真実』を覆い隠し、
セカイを正しいカタチに定義するモノだよ。」
私はその話を聞いてもよく分からなくて。
ただ、▇▇が困ったような表情で
私を撫でてくれたその感触はよく覚えていた。
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柔らかいベッドの上で横になって、
僕はじっと天井を眺めていた。
つまらないミスをしてしまったお陰で
僕は『先生』に酷く怒られる羽目になった。
焼けた背中がじりじりと痛む。
一見綺麗に片付いて見えるこの部屋は
ただ単に物が少ないだけ。
僕が生まれる前は真っ白だったはずの天井には
転々と黒い染みが見えた。
もしも白と黒が反対だったなら
きっと星空みたいに綺麗だったのかな。
白い空の黒い星をを繋ぎ合わせて
架空の星座を描いて遊ぶ。
僕は星が好きだ。晴れた夜の空が好きだ。
音楽を除けば、きっと唯一好きなもの。
小さい頃、僕がそう話した夜に
『先生』は一編の楽譜をくれた。
星をモチーフにした変奏曲。
元々は違う意味を持っていた曲らしいけれど、
僕はそれが嬉しくて、繰り返し練習した。
『先生』が及第点をくれた初めての曲。
気づけば僕はピアノに向かい、
またその曲を奏でていた。
──きらきら 光る お空の 星よ