――わたしは夢を見ていた。
そこにはわたしのほかには誰もいない。
真っ白な空の下、そこには無限に続くような水面が広がり、その上にわたしは立っている。
遍く静寂。永遠の凪。
もし、誰かがこれを見たとすれば、さびしい風景だと思うのだろう。
でも、そこにいるわたしは、不思議と、さびしさを感じることはない。
目には見えないけれど、誰かがずっと、そばに居てくれるような気がした。
温かい眼差しで見守りながら。心から、わたしのことを慈しむように。
――そんなわたしの夢は、とてもうるさい英語の挨拶でかき消されていった。
よくわからない説明が、耳を通り過ぎていく。
理解もままならないまま、わたしは夢のような時間から現実へと戻されていった。
*** Side:イバラシティ
「はあ~あ、学校に行くのはいいケド、勉強はやだな~~」
避田高校に行くまでの道すがら、まだ転入して間もないというのに、そんなため息が漏れる。
頭をつかうのはそんなに得意じゃないし、たまによくわからない回避の講義になるし……。
本当に回避の役に立つのかな……、赤点を回避する方法なら教えてほしいけど……。
ZOOで鰐淵さんにも言われたけれど、学生の本分は勉強だし、まずは赤点を回避するのが第一だ。
「まあでも! 今週が無事に終わったら!
ヒトミ先輩とウラド区のイバモールで携帯電話買って!
カラオケにいって!なんかすごくJKっぽい!」
これまでずっと田舎に住んでいて、都会で生活をするというのは初めての経験だった。
木造の家ばっかりだった風景がビルなどの並ぶ風景になって。
土地の大半が森だったのが、きれいに区画整備されていて。
新しいものがいっぱいあって。見たことがないものがいっぱいあって。
わたしにとっては、新鮮さに満ち溢れた毎日となっていた。
「それに鰐淵さんを連れて、オオキタダンジョンにもいってみて、
ポメラニアンイリュージョンカフェにも行ってみないと……!
りーねちゃんやわーくんも、近場だったらもしかしたら一緒にいけるかなあ」
歩き回った成果か、いきたいところはいっぱいできた。
とはいえ、学生の身の上。きっちり予定を立てて、計画的に行動しないと……!
計画は未定だけど……!
「そのあとは、ポポロちゃんにも教えに行ってあげないと!
興味がありそうなところがあったら、一緒にいけるかなあ」
ひーふーみーよーいつむーやー。
数えあげてみると、行った場所、行きたい場所は、結構増えていた。
それとあわせて、知っているひとびとの数も。
「えへへ、まだまだ行ったことのない区もいっぱいあるし……、
いっぱいいーっぱい走り回らないといけないなあ」
新しいところに出会い、新しいひとたちと出会い、つながっていく。
わたしにとってのイバラシティは、まだまだ始まったばかりなのだ。
*** Side:ハザマ
――そして、”わたし”の知らないイバラシティもまた、始まったばかりだ。