≫現在地:Q-Lv27 【星巡りの海原・奥】 ――澄んだ音と共に、静寂が砕かれる。 何者かの手が、薄氷を貫いて、沈みゆく僕の手を取った。 氷の破片が、その手に深々と刺さって、紅が海面に漂って、すぐに消えたが。 そのボロボロの細い手のどこにこんな力があるのかと思うほどに力強く、僕をこの心地の良い冷たさから引き揚げる。 確かに人肌の温もりを感じたと思えば、誰かに抱きしめられていた。 『よかった……』 優しく囁くような安堵の声に、確かに聞き覚えがあった。 それは本来、憎んでいる筈の相手。倒すべき敵。 しかし彼は、子供のように泣きじゃくりながら、僕を温め続けていた。 君が、生きていてよかった。助かってよかった。 彼女を助ける度に味わってきた安堵と全く同じ声が聞こえる。 鏡にでも映したような、あのときと全く同じ表情が、確かに目の前に存在した。 ――どう……して……? BUGというものは、常に開拓の障害として開拓者たちの前に立ち塞がってきた。 北へ行けば行くほど、彼らは脅威となってきた。 開拓者というものは、常に惑星の侵攻者としてBUGたちの前に立ち塞がってきた。 北へ行けば行くほど、彼らは脅威となってきた。 しかし、今、そのBUGが、僕の目の前にいる。 しかし、今、その開拓者が、僕の目の前にいる。 「苦しい、な……」 僕はそう答えた。 何が苦しいのか、どうして苦しいのかもわからなかった。 ふと、口を衝いて出た言葉だったが、本音であることには間違いない。 本当ならば、このままこの薄氷の中に沈んでしまいたかった。 心地の良い冷たさの中に、堕ちてしまいたかった。 もう、開拓を続ける必要もないのだから。 “人の為”などと言って、ありもしない正義や矜持を振りかざしている”僕”は、もうここにはいないのだから。 結局、約束は何一つ守れやしなかったのに、見捨てないためなどと、人が悲しまぬようにと、最後に残された意志さえ潰してきた僕のことは、せめて一人でも悼んでくれればいいと。 そう思っていた、はずだった。 「どうして、助けた?」 “僕”の腕に突き刺さった氷のように、劈くような空気が漂った。 余計なお世話だというように、僕は”僕”を睨みつけ、淡々とした口調で”僕”に問うた。 『……約束、したからね。”もう、誰かの為に死ぬような僕じゃない”って』 「……違う!これは、全部、僕の為にやったことだ! “僕”がさんざん”人の為”と言ってきたものを、全部否定する為にやってきたことだ! BUGを……”僕”を……終わらせる為に……やったことなんだ」 綺麗事を並べようとする”僕”を制止するかのようにまくし立てる。 “僕”は抱きしめていた手をそっと離し、変わらぬ優しい眼差しで、僕の話を聴いている。 その一方で、僕の瞳の紅は、狂気に満ちたイロを見せているに違いない。 「僕は……何一つ、その約束を守れていなかったのに…… 自分を大事にすることも……人として生きることすら、できなかったのに」 “もうヒトリ”を倒したあの日から、僕という存在はがらんどうになってしまった。 “人の為”に平気で命を投げ出そうとする、自己犠牲を美談とする”僕”と決別したその瞬間。 “人として生きなさい”と言い残されたにも関わらず、その一方で、その戦いは人としての生き方との決別を意味するものだった。 ゆえに僕は、太陽がその身を燃やし尽くし、生命を育むように、僕も自分の身を削り続け、人を照らす存在になろうとした。 「人として当たり前の生き方すらロクにできないのに、僕が《Eclipse》であることを盾にして、正当化しようとしている僕なんて……」 ふと夜空を見上げれば、黒紫色の髪を梳くように、優しく頭に手を置く”僕”の姿があった。 『――それが、君の生き方なんだね』 こんなにも無様な僕を、”僕”はあっさりと肯定した。 ただ、”僕”を見上げることしかできなかった。僕なんかよりもずっと、人として生き、人の為に生きてきた”僕”を。 『君がその道を選んだのなら、僕はそれを否定するつもりはないよ。 だって、君は僕に打ち勝ったんだからね』 こんなに優しくされていいはずがない。 頑張ってすらいない。今までは人間のフリができていたのに、今は人間であることさえ放棄してしまった。 何一つできやしなかった。 しかし、目の前の”僕”は。 本来であれば互いに互いを終わらせるはずの、決して交わることのない僕は。 ――僕は、僕が思っているほど、穢れたものなんかじゃない。 「ただ、僕には、”人として生きる”ことが苦しかっただけなんだ。 それだけの理由で、アルカナナイツを裏切る形になってしまった。 結局、僕は誰の為にもならなかった。団長を、団員を……裏切ってしまった!」 胸元につけていたはずの勲章は、いつの間にか海底へと沈んでいた。 星の灯りしかない闇の底では、もう見つかるはずもないだろう。 『そんなことないよ。ちょっと、ついてきてくれるかい?』 “僕”は頭から手を離し、今度は、水底から僕を引き揚げたときのような力強さで、僕の手を再び取った。 「本当は、”僕”なんかじゃなくて、僕に見てほしい景色だから。 君も、本当は見たかったはずの、景色だから」 * ≫現在地:C-Lv30 【デッドライン】 そこは一面の銀世界だった。 しかし、そこに美しさというものは感じられなかった。無骨で、さながら廃墟のようにも感じられた。 鈍色の空に蓋をするように掛かったオーロラが、感情を失ったかのようにゆらゆらと、ただ揺れるだけ。 僕と”僕”の二人の間を、劈くような風が吹き、虚ろとさえ感じられる空気が漂っていた。 “僕”は1枚のカードを懐から取り出す。 『ここが、美食愛好会が言っていた、”遥かなる地”だよ』 生命の気配さえ感じられないこの土地に、ましてや美食など存在する訳がない。 かつての開拓のことを知らない僕でも、かつての開拓のその先に広がっていた光景が、こんなにも殺風景なものだとは思ってもいなかった。 ――彼の地を進まれた開拓者達よ。かつての開拓よりも、さらなる先を見ることはできただろうか。 ふと、僕は南側を振り返る。幻想田園と呼ばれていた場所を。 食を求めるのであれば、あの地に留まるのが最善の選択肢だったはずだ。 しかし、今はただ田園風景が揺れるだけ。彼の地に残った開拓者は、指を折って数える程しかいなくなってしまった。 『あの美食愛好会でさえ、”さらなる先に、肥沃な大地に巡り会える気配はない”と断じた場所だよ、此処は』 なれど、僕は此処を目指していた。 開拓の理由も失った。アルカナナイツにいる資格さえももうないのかもしれない。 もはやただの本能としかいえないのかもしれないが、僕はこの捨て置かれた地を、見てみたかったんだ。 “僕”は懐から取り出したカードを、僕に手渡した。 『大丈夫。君には”大いなる意志”がある。 人に流され、人に願われるままに、人として生きることしかできなかった”僕”とは違って』 そんなのは、意志なんかじゃない!ただの現象に、概念に過ぎない! 『《人間》を捨てて、《日蝕》という天文現象として生きる道を、君は選ぶことができたんだ。 正義とか信念とかじゃなくて、手段としての、ね』 ――そう、か。 僕は人間のフリをする時間が長かったから、気付かなかっただけだった。 人との関わりが多いから、揃う筈のない足並みを揃えようとしていただけだった。 だから、無理しているのは当然のことで、苦痛を感じるのは当たり前のことだったのだ。 《日蝕》としての僕は、そもそも人間ではないのだ。 そう頭では理解していても、社会という枠組みの中においては決して通用することのない結論に、舵を切るのはそう簡単なことではなかった。 それはとても、勇気の要ることで……”大いなる意志”が必要だったのだ。 「でも……僕は……」 最期を迎えるその日まで、一度交わした約束を破ることになってしまう僕を、今まで関わってきた人達は赦してくれるだろうか。 その答えはきっと、対話の中でしか導かれないだろう。 僕と”僕”だけで結論づけられることでは到底ない。 “僕”もそれに気づいていたのか、何も答えてはくれなかった。 『《人間》の”僕”は、ここから先には行けない。 だから……君の目で、この惑星を最後まで見届けてほしいんだ。 この惑星の”穢れ”と”歪み”を引き受ける《日蝕》としての君なら、ここから先に行けるはずだから』 笑顔で見送る”僕”を、強く抱きしめた。 今までありがとうと言うように。或いは、浮世のことは任せたよ、というように。 『さよなら、僕』 銀色のセカイに、光の粒子が零れ落ちる。 “僕”の鏡状の鱗が、鈍い音を立てて剝がれたその瞬間。 ――待って! 空の鈍色を際立たせるように透き通った”僕”を呼び止める。 僕が懐から出したのは、2枚の確歩カード。 長く惑星を渡り歩いていれば、誰しもが目にしたことのある、決して貴重なものではない紙切れ。 「これを、あの戦艦まで届けてほしいんだ。戦艦の場所は、ちょっと遠いけど。 それと……もう一枚は、君の”意志”で使ってほしい」 “僕”はそのカードを受け取ると、柔らかく頷いた。 僕から手を離せば、”僕”は踵を返そうとして…… ふわりと舞う夏の雪のように、その光は僕を優しく抱擁するように舞い上がって、鈍色の空を彩った。 ――残されたのは、たった一枚残された、紙切れだけだった。 |
千尋 「まだ、僕は戦える……人を照らす力になれる……」 |
千尋 「まだ、戦うことが赦されるならば……僕に、チカラを!」 |
千尋 「まだ、戦うことが赦されるならば……僕に、チカラを!」 |
千尋 「少し、片付けておきましょうか」 |
千尋 「……行く場所がある。賽の目には頼っていられないんだ」 |
千尋 「……もっと、前へ」 |
ソーン 「頼まれたなら、やってやるさ。」 |
少女 「ん♪」 |
× | Pno185 ヨシノPT [前 / 新 / 集] Eno185 ヨシノ Eno362 メルクーシン=ファビオラ Eno13 烟玖 Eno89 地獄の髑髏妖 Eno99 彗星 |
VS | Pno190 Afterdark [前 / 新 / 集] Eno190 早川 千尋 Eno363 ソーン・ウォーカー Eno368 イゼット・エヴェレン Eno227 少女 Eno44 氷の宰相 |
○ |
○ | Pno190 Afterdark [前 / 新 / 集] Eno190 早川 千尋 Eno363 ソーン・ウォーカー Eno368 イゼット・エヴェレン Eno227 少女 Eno44 氷の宰相 |
VS | Pno301 アレクPT [前 / 新 / 集] Eno301 アレックス・ドルミール Eno302 レイア・ドルミール Eno14 闇 Eno300 リーヴィア Eno4 ドリス=ドワイズ |
× |
× | Pno9 シャケPT [前 / 新 / 集] Eno9 シャケ Eno49 相楽木リンド Eno252 アルジオキサ Eno300 リーヴィア Eno368 イゼット・エヴェレン |
VS | Pno190 Afterdark [前 / 新 / 集] Eno190 早川 千尋 Eno363 ソーン・ウォーカー Eno368 イゼット・エヴェレン Eno227 少女 Eno44 氷の宰相 |
○ |
――《太陽》の意味、《日蝕》の意味。 身を滅ぼし、何時かは星さえも呑み込む運命を。 赤色巨星となって数多の命を呑み込むか。 それとも、まだ、春の陽射しで命を導くか。 欠けた太陽の行く末は、今、此処に託された。 |
千尋 「たとえ僕がBUGでも、前に進まなきゃいけないんだ」 |
ソーン 「オレはそれなりに色々やったけど、人は殺してないんだぜ……。 いや、人じゃないんだろ?わかってるよ。」 |
少女 「こんにちは。貴方はだぁれ?」 |
レイア 「あっえっとこんにちは…え?もしもーし? 」 レイア 「…て、敵襲なのー!?」 |
アレク 「人?BUG? どっちかわかんないけど邪魔するなら全力で行くよ!」 |
「………」 |
サート 「皆さん、準備はいいですか。」 |
ドリス 「それじゃ、虫退治と洒落込もっか!」 |
「………」 |
「………」 |
「………」 |
「………」 |
レイア 「始めるよ…拡がれ、”Verteidigen”!」 |
レイア 「その力は我らが糧に――”Stehlen・Schwert”!」 |
レイア 「お願い耐えきって…――”Ausdauer・Schwert”!」 |
レイア 「虹色に光る☆彡全吸天光……です!」 |
Afterdark Chain | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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BUG Chain |
「………」 |
「薄まって消えていく――”Alptraum・Spärlich”」 |
「薄まって消えていく――”Alptraum・Spärlich”」 |
千尋 「一気に畳みかけるよ!僕についてきて!」 |
千尋 「前に進むチカラを!」 |
千尋 「前に進むチカラを!」 |
ソーン 「いつもいつも……いやなカードばかりが出やがる!」 |
レイア 「いっ……!!」 |
アレク 「い”っ…これは効いたぁ…。」 |
レイア 「どんな攻撃も防ぐ予定ですが、それは正直やめてほしいです!」 |
レイア 「いっ……!!」 |
アレク 「い”っ…これは効いたぁ…。」 |
千尋 「前に進むチカラを!」 |
レイア 「いっ……!!」 |
アレク 「い”っ…これは効いたぁ…。」 |
アレク 「い”っ…これは効いたぁ…。」 |
アレク 「い”っ…これは効いたぁ…。」 |