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Last fragment 《The Long Goodbye》 わたしは、魔法衣のまま、目的の場所にやってきた。 今変身を解いてしまうと、病院着になってしまう。 この格好も恥ずかしいけれど、病院着よりはマシだ。 表札を確かめる。 『白水』 うん、間違いない。 時間は…まだ夜の10時。 ちょっと非常識な時間だけど、今日はそうも言ってられない。 意を決してインターフォンを鳴らす。 「はい?どちらさまですか?」 可愛らしい女の子の声。 たぶん、妹さんだ。 「あの、わたし、八月朔日っていいます。 要先生の…お兄さんの教え子です」 「あ、みづほさんですね? お兄ちゃんからお話はいろいろ聞いてますよっ」 一体どんなことを話されてるのか気になるけど。 「あの、それで、お兄さん今いらっしゃいますか?」 「いますよっ。呼んできますねっ」 インターフォンのむこうで軽い足音が遠ざかっていくのが聞こえた。 暫くして、玄関の扉が開く。 「みづほちゃん? こんな夜遅くにどうしたんだい?」 やさしい先生の声。 本当に久しぶりに聞く、好きな人の声。 だけど、先生の顔はすぐ訝しむものに変わる。 「あれ?みづほちゃん、確か入院してたんじゃ…」 「先生っ。 わたし、先生にどうしても伝えたいことがあって」 先生の言葉を遮りながら、わたしは言った。 精一杯の勇気を込めて。 たぶん、さっきの戦闘よりも緊張してるな、わたし。 「聞いて、欲しいことがあるんです…」 「今じゃないと…だめなことなんだね?」 「…はい」 「わかった。 …かなた。部屋に戻ってなさい」 「はぁい。…気づかれてないと思ったのになぁ」 聞き耳を立てていた妹さんを人払いして、先生はまっすぐわたしを見た。 ちょっと、恥ずかしい。 「わたし。 …わたし、先生のことが好きです」 とうとう、伝えた。 ずっと心に秘めていた思いを。 先生は少し面食らったような表情をし、続いてそれが困ったような表情に変わった。 「ありがとう…。 その気持ちはとっても嬉しいけど…」 「はい、分かってます」 先生に彼女がいるのは知ってる。 だから、気持ちを伝えたいって言うのはわたしのわがままでしかない。 だけど、伝えないまま終るなんて、そんなのは嫌だから。 「ただ、伝えたかっただけです。 困らせたかったわけじゃ、ないんです。…ほんとうですよ?」 「ああ、君がそんな子じゃないって事は分かってる。 …俺は君のその想いには応えられないけれど…でも、ありがとう」 そして、先生はわたしの頭を撫でてくれた。 成績が上がったときにそうしてくれたように。 それだけで、なんだか救われた気持ちになった。 おかしいな。わたし、失恋したはずなのに。 「わたしこそ、ありがとうございます。 …ちゃんと…伝えることが…できて…よかっ…」 そこでわたしは意識がすうっと遠のいて行くのを感じた。 ああ、タイムリミットなんだ。 薄れて行く意識の中、崩れ落ちるわたしの身体と、それを支えて慌てる先生が見えた。 最後まで、迷惑かけちゃったな。 ごめんなさい、先生。 ごめん、みんな。 …そして、視界が反転した。 ◇ ◆ ◇ 「…目的は、果たせた?」 目の前には召喚師の顔。 心配してくれたのかな。 「はい。全部、終わりました。 ありがとうございます」 いつの間にか寝かされていたベッドから起き上がり、召喚師にお礼を言う。 「私が関わった以上、中途半端に死なれると寝覚めが悪いのよ。 気が済んだなら準備をして。最後の拠点の攻略に出かけるわよ」 そう言うと、召喚師は踵を返して部屋を出て行った。 「心配してるんですよ、あれでも」 巫女がフォローを入れる。 「…わかってます。 わたし、ご恩を返せるように、最後まで精一杯戦いますね」 そう、巫女に笑顔を返した。 ◇ ◆ ◇ なるほど。それで今回が最後、だったのか。 戦闘が終了し、拠点の攻略が無事終っての帰り道、わたしは全ての事の顛末を聞いた。 わたしたちが、元の世界に戻される理由を。 …こちらの戦いが終ったわけではないことを。 それと、こちらにとどまるという選択肢もあるということを。 「みづほ、ちょっといいかしら」 はじめて、召喚師にちゃんと名前を呼ばれた。 「はい?」 「この間のことで話しておくことがあるわ」 「この間…あっちに一度戻ったことですか?」 「ええ。うすうす気づいてると思うけれど、 みづほの体は無理に動かしたから酷い事になってるわ」 思ったとおり、大変な事になっているらしい。 そういえば、薄れいく意識で見たわたしの身体、思いっきり血を流してたような。 先生に嫌な思いをさせちゃったかな。 って、そんなこと言ってる場合じゃないか。 「でも、幸いなことに一命は取り留めてる。 ただ…他の人と同じように帰ってしまえば、確実に死ぬわ」 あれ?その言い方だと…。 「ええ。 こちらに残ることを選択すれば、みづほの体が癒えるまで時間を稼ぐことができる」 意外だった。 てっきりわたしはもう死ぬものだと思っていたのに。 生き残る術があるなんて。 「それなら、何も迷うことはないじゃないですか。 わたし、こちらに残りますよ」 「…そう。 それじゃあ、他に残ることを選択した人たちといっしょに、 お茶でもしながらそのときを待ちましょう」 召喚師さんのあんなに優しい微笑を、わたしは初めて見た。 ◇ ◆ ◇ 召喚師と別れた私は、もう一つ行くべきところがあった。 こちらの世界で友達…親友になった女の子のところ。 ノックをすると、彩花ちゃんは部屋に招きいれてくれた。 わたしに椅子をすすめて、お茶を淹れてくれる。 「それで…私に話があるんだよね?」 「お見通し…か」 「そりゃもう。私達、親友でしょ?」 お茶を飲みながら頷く。 「わたし、ね。 こっちの世界に残る事にしたんだ」 彩花ちゃんには、最初、元の世界に戻ると伝えた。 それから、お互いの家を訪ねる約束も。 「そっか…」 彩花ちゃんは少しうつむいて、呟いた。 「私は召喚士さんに呼ばれないとこの世界には来れないから…。 しばらく会えなくなっちゃうね」 「うん。でも、いつか、きっとまた逢えるから。 そうだ。身体が治ったら、まずまっ先に彩花ちゃんに逢いに行くよ。 大丈夫。わたし、今まで一度も約束破ったこと、ないんだよ」 「うん、私もそう信じてる」 そう言うと、彩花ちゃんは小指を私のほうに差し出した。 「だから、指きり。 生きていれば絶対また逢えるもんね。 それがこっちの世界か、私の世界かは分からないけど、必ず」 「うん、必ず」 ◇ ◆ ◇ 明日、皆は元の世界に帰る。 わたしはそれを見送るのだ。 いつか、再び逢える日を夢見て。 大丈夫。時間はたくさんある。 夢なんていくらでも見られる。 なんと言っても、ここは常闇なのだから。 It is time to say Good-by for a while. To be continuedo to...? The end. |
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