ユディの一週間

「この世界の事を知りたいと思うのは、今も再び、
主からの次の号令がある事を信ずるが故かしら。

それぞれの英霊の内に心に決めた道があり、
我々の知識がその道行きの役に立てるのであらば、
己の取るべき行動は自ずと導き出せるわね」

「人を欺く手法を知り、それを見抜く貴女の目と、
外法の類を解析出来る我々の目があればより万全ね。

…貴女の捕り物の話について興味はあるのだけれど、
そういう『仕事』について訊ねても良いものかしら。
大小問わず、非合法活動を担う組織に従っての行動は
機密として外部には洩らせぬものでしょうし。
尤も、現世で既に命を落としているのであらば、
守秘義務について時効となるのやも知れないけれど」

「現に、私は霊魂の姿のままで存在し得る事から、
必ずしも不可能という事は無いのだと思う。
ただ、黒衣の主自身がこの世界に留まる選択も
我々に提示してくれているのなら、今まで通り、
依代との共存を図る方が不便は少ないやも知れない。

それに、偶然とは言え今一度、仕切り直せる機会が
巡ってきたのだもの、みすみす捨て去る事もないわ」

「今回の件…仕事と言えばそうなのだけれど、
私にとって、決してそれだけではないの。
盗まれた書物は、私個人にとっても特別なもので、
この生業を始める『切っ掛け』になったものなのよ」

「かつて人の身でありながら『司書』として生き、
今は既に亡くなった方が、未来への希望を込めて
私の手に託してくれた、とても大切な『私物』。

…強力な魔導書にして、私の義姉さんが遺した手記」

「時が経ち、それが『図書館』に保管された後でも、
それが、何処の馬の骨とも知れぬ賊如きに
悪用されるなど、家族としては看過できぬもの。

今も、天国で書物を読み耽っているであろう故人が
安心してその生活を送れる様にしてあげるのが、
私の『私事』であり『仕事』…そういう事なのよ」

「…最近、怖いほど敵の攻撃に当たらないのよ。コレはカモフラージュに成功してるのか…それとも敵としてみなされていないのかしら……」

「ああ、あなたも帰りたくない側だったの…。
穏便に帰らずに済む方法…。手始めに召喚士を血祭りにして全権を掌握すれば…？　ああでも『彼女』と戦うのも嫌だし…。
ま、なるようになるんじゃない？　何時帰ってもいいようにきちんと身の回りの物は整理しておいたほうが良さそうね」