ちぇる子の一週間

「ちぇる子、つまり汝は最初から最後まで我に手綱を引かれる運命と云う事だ、これは揺るぎの無い現実であり、逃れる事は出来ない。そろそろ噛み締めて抵抗をやめる事だ。
アイデンティティやら定石などと云うものに固執する余り幸せを遠ざけるのも考えものだ、素直になるが良い。（尤もらしい顔で頷いているが、若干鼻で笑い）」

「────悪名？
汝のこれから先歩む道のりが妖精らしく美しく我への献身に満ちたものであれば、「スカート捲られて惚れる」などと云った枝葉は人々の口に上らぬ、そのような名が残り他に何も話題にならぬほど我に骨抜きになると云うのなら、……まあ、それはそれ、この我の魅力が罪なのだ、構う事はない。我がその罪を甘んじて受けようではないか。」

「そう、「妖精のスカートを捲って惚れられた王」と語り継がれる事でな。」

「まあ、我から見れば汝の阿呆らしさも愛らしさも変わらぬと云う事だ。そこに拘る事自体が無駄な事よ、汝とて人がやけに拘る小さな事にその当人の認識とは別の感想を抱く事くらいあろう。」

「……（考えた通りの言葉に「やはりか」とは思うものの「ほう」と感心げな相槌だけ寄越す事にした。
　指先で小さな頭をやんわりと撫でたのは「一番イイ男」と云う褒め言葉への褒美なのか、暫しして軽く突付き）」

「結局誰にも猫が通用しておらぬようだな。──ありのままのちぇる子様とやらはあちらこちらで姿を見せているようだ。しかも己の知らぬ襤褸をあちらこちらで零しながらな。」

「………ふん。」

「我を慕わしく想う気持ちを否定する必要はないではないか、それが汝のありのままの姿、自然な気持ちと云うものなのであろう。着飾らぬのと同じ事、己の心を偽る必要もない。」