――私は、始まりの場所へと戻ってきた。

「だいたいこの辺だったよね」

『うむ。……不思議だ。ついこの間のようにも、随分と昔のようにも思える』

つい先ほど、一揆の間世話になったパーティに別れを告げ、彼らの元から離れた。
それぞれに自分なりの贈り物を用意して、世話になった旨と共に伝えた。センスがある方ではないので、意味合いの方を重視して贈らせて貰ったが……迷惑にはなっていないだろうか。
ヘイアンとミモザには、手持ちの素材からイヤリングを。持つも捨てるも自由だが、頭の片隅で覚えておいて貰えればとは思う。あの二人は何とかやっていくだろう。
ナビに関しては……届いたかどうか定かではない。見た目はいつも通りだが、最近はまるで体調が悪いかのように、どこか上の空だったからだ。もしかすると、ふっと消えてしまったかもしれない。……もしかすると、届かないほうがいいのかもしれない。

「じゃ、始めるよ」

パーティと別れた私に残ったのは、シィルとの約束 ―― 私は大怪我を負っていたシィルの寄り代となり、回復を助ける代わりに、シィルは私に力を貸すこと ―― のみ。
後者の条件は十二分に果たされた。後は私が、シィルに十分な力を注ぎ込めば、この関係は自動的に清算される。元々たいした力を持っていなかった私との、そういう契約だ。
目の前には、相変わらず何処となく薄っぺらいシィルの姿。その頭に手を置き、エンブリオを倒すことで得てきた力の一部を流し込んだ。

『……ッ』

ぷつ、と髪が一本切れたような感覚。先程まで感じられていた目の前の小柄な姿が、今は目視しないと感じられない。
一方で先程までどこか薄っぺらかったその存在は、今はしっかりと力の波動を放っている。
条件を満たしたことで、自動的に契約が切れたのだろう。今のシィルは、元の一体のエンブリオへと戻ったのだ。

「……これで終わり、だね」

私はそう言って笑う。抑えきれない寂しさを誤魔化すように。
一方のシィルは、自分の手を握っては開き、感覚を確かめているようだ。……ぼろぼろの服は、何故かまだ直っていない。

『うむ、確かに。助かったぞ、オマエがいなければ今頃私は消滅していたことだろう』

そう礼を述べるシィルはいつもの調子で、言葉にかろうじて親しみが感じられる程度。こんな時まで無愛想な奴だと思う。

『オマエはこの後、どうするんだ？』

「やることも終わったし、メルンテーゼを巡るか……分割世界のどこかに足を伸ばしてみようかな、って」

来た時が来た時だから、変な帰り方させられるかもしれないけれど。

『ふむ』

少し考え込むようにするシィル。何だろう、何か提案でもあるというのだろうか。

『いやなに、もし良ければ――』





森の中、開けた場所で休む一人の女性。
その周辺には、三体のエンブリオがふわふわと浮かんでいた。

　奪ってしまうことを心配して今まで人との直接の接触を出来るだけ絶っていたようだ
　ちょっとだけ考えてからこちら側からも手を伸ばし軽くだけ握手をして、ひんやりとした感触が伝わるだろう

紅茶を「ありがと」と受け取り、飲みながら話を続けるロッテ。
辛い記憶を思い出してか、言葉に詰まった際は紅茶に口をつけて一息。
そんな調子で、一通り話を終えた。

友達になってみたいと言われ、一瞬狼狽えるも、

にまにまするのを抑えきれないといった様子のロッテなのだった。