囁くように紡がれる言葉に、理解が追い付かなくなった頃。
彼女が次に見せた動きは、びくりと跳ねるようなものだった。
耳へと落とされた口付けに、我に返ったかのように身体を引き離す。

浮かぶ表情は、羞恥と困惑とが混ざったもの。
目は見開かれ、信じがたいものを見るかのようにあなたを見つめている。
悪魔にとっての『食事』が何なのか、今になって理解したようだ。
視界に入った今、あなたの表情はどうなっているだろうか。
口元は歪んだままか、それとも戻っているだろうか。
……いずれにせよ、その変化に気付く余裕はなさそうだが。

大きく息を吐く。それでは気分を切り替えるに不足だったのか、もう一度吸って、吐く。
それでようやく、平素の表情が戻ってきた。

なのでお友達からお願いしますと、悪魔側からすれば少しズレたような提案をする。
すっぱりと断らないのは性格ゆえか、悪魔の誘惑の効果だろうか。
それとも、この短い期間で友好的な感情でも抱いているのかもしれない。
その提案をどのように扱うかは、あなたの自由である。

少女の腕の中のエンブリオは、正面の主と真上の借主を見比べて。
そしてやれやれといったようにため息を吐いた。

そう言いつつマリアの姿も闇に溶けるように消えてゆく。
気配が消えていくかのようだ。

そう言いながらひらひらと手を振り、やがてその姿も気配もなくなった。