https://dl.dropboxusercontent.com/u/80123605/%E3%83%98%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E8%B3%87%E6%96%99/69.txt

馬鹿騒ぎも、これで閉幕。
　メルンテーゼに対して抱いた印象は、結局最初から最後までいいものではなかった。
　
　同族嫌悪と羨望。
　
　この世界も、俺の世界も、得体のしれないものによりかかって成り立っているという意味では同じだった。
　にもかかわらず、一方では危急に喘ぎながら長きに渡る思索を続け、一方では疑問すらもたずに安穏と暮らしている。
　
　今なら分かる。
　あの老人達が事実をひた隠しにするのは、きっと脱出を企てるものが現れるからではなかったのだろう。
　そういったエネルギーが残るなら“まだマシ”だ。並行世界の存在が公になれば、きっと――――

（……考えても無駄だな）

　老人たちが情報管理をしくじるなどあり得ない妄想だし、そうなったらそれまでのことだ。
　たとえ世界でたった一人になったとしても――己の目的だけは、何としてでも果たしてみせる。

　――ノーライフキング、そしてヴァンパイア。

　ミモザたちの話から組み立てた理論上では『吸血鬼のチカラ』としてカテゴライズされ、多少の変質はあっても持ち帰れるだろう。
　
　それがどの程度の影響を及ぼすのかは、やはりその時になってみなくては分からない。
　チカラだけで済むのか、いずれかの顕著な性質を伴うのか。もしくは……その他の獣共のように自我を失うか。
　たとえ悪い方にふれたとしても……多少遅いか早いか、程度の違いでしかないだろう。
　
　このまま“黒服(ノワール)”を続ければ、長くて3年。
　もう十年近くもヒトの身体をいじくりまわしてきた『お医者様』にそう宣告されていた。

　本来ならあの日、あの時尽きていたはずの命だ。“王”を――“彼女”を斃せさえすれば、どうなろうとかまわない。
　……俺、一人ならば。
　
「……本当に、ついてくるのか」