メルンテーゼから怪傑Xが消えてから、数年が経過した。

ディグリース・インダストリーに勤めるサイネルは日々、エネルギー問題への解決に取り組んでいた。

ネクター問題解決策の提示、並びに技術発表。そしてネクターを究極的に分解した物質、『ネクティウム』の発表。
サイネルは就職してまもなく博士号を取り、苗字を与えられた。

『サイネル・プロメテウス・サピエンス』

皮肉と嫉妬を盛り沢山に込められた苗字を背負い、時には机に向かい、時には宇宙《そら》を飛ぶ。
怪傑X時代に培われたバイタリティがこんな形で役に立つとは、思いもしなかっただろう。

すでに研究員はもう殆ど帰っている。
今日は早く帰ることにしていたサイネルは、荷物を纏めて退勤するのだった。



自作の転送装置を起動してまもなく、サイネルの身体はタンポポ荘の一室に送られてくる。
転送装置の構造から見直したカスタム仕様なので、持病のワープ酔いは起こらないようになっている。

帰宅したサイネルはタンポポ荘の家族と他愛の無い話をしたりして過ごす。

たまに騒ぎを聞きつけてはフォローに回ったり、イベントがあればサポートをしたり。

こんななんでもない日々が、自分が本当に欲しかったものなのだ。

だが、いつまでもそこに浸っている事を周りが許してはくれないのだ。

今のサイネルは、色々なものに必要とされているのだから……


WRRRRR！

ポケットに入れておいた無線機から、音量を低めに設定しておいた警報が鳴り始める。
無線機の警報にいくつかの問答で応じたサイネルは、転送装置に急ぐのだった。


―――いつか、どこかの摩天楼にて。

超高層ビルのてっぺんに転送されたサイネルは、満天の夜空をひっくり返したような街並みを見下ろしながらぼやく。
その手にはアト・ホテップそっくりな黒い仮面が握られており、衣装は黒、腕にはDFDを組み込んだ篭手を装備している。
仮面と衣装はかつての怪傑Xそのままで、篭手には金色の光る模様が引かれている。

ネクティウムの発表からしばらくして、その技術を狙う謎の組織が出現した。
溢れんばかりの叡智をもたらすネクティウム、それに匹敵するオーパーツを用いて暴虐の限りを尽くす組織の人間。
サイネルがここにいるのは、その暴虐を止める為なのだ。

サイネルは仮面を付けて、再び怪傑Xとなる。救世の殺戮者としてではなく、今度はただの守り人として。
『怪傑X』が活躍することでディグリース・インダストリーの提供しているグッズの売り上げが伸びるとかなんとかで、
サイネル活躍させるために新装備を作ってくれたりしている。
衣装の中に仕込んだアーマーをはじめ、金の模様が入った篭手。
そして、ビルの下を飛び回るコウモリのような形をしたボード……ウィングスティンガーもその一つだ。

超高層ビルから飛び降りる。怪傑Xはマントを広げて、目的地に向けて滑空する。
追従してくるスティンガーと共に、夜の闇と光の中へ消えていく……

蠢く混沌の中を、無重力にて浮く白髪の男がゆっくりと進む。
男が通るだけで混沌たちは、ぶちぶちと音を立てながら沸騰し始める。
次々と弾けて消えていく混沌の壁。しばらく進んだところで、はじけた壁から何者かが顔を出す。

無貌の異形が、大混沌に飲み込まれようとしていた。

男がそう言い終えると、異形の捕らえられている部分を含む混沌の壁が、月三つほどの大きさに切り取られる。
男の視線が出口を向くと、切り取られた混沌はそこを通って世界の狭間に放り出された。

こうして世界最悪の神々は、世界から姿を消すであった。

[CAUTION]