灯りの色が揺らめく。音色の響きが揺らめく。布端の影が揺らめく。

「――……？」

　水流の如く、自然とすり抜けるばかりで在った揺らめきが、意図的に己が身に絡み付いた鈴の音が揺れる。黒布の端が揺れる。様々なものが、様々たる形で偽の周囲を揺らめく。揺らめく。揺らめく。

「……、」

　揺らめきの波紋を認識する。リズムの狹間を爪先で踏み、委ねて揺蕩う様。あわせて刻むのはへたくそなダンスの足取り。

　水の香りがそばにあった。恐る恐る近づいた。
　たどり着けば真正面。スカートをつまんで御辞儀をひとつ。

　おばけなんてないさ、こわくなんてないさ。わらべうたを口ずさむよう引き結ぶ唇。合言葉めいた、こどもめいた拙い吟。
　だけどそれはうそさ、なんていうんだもの。口許をへの字にして眼を細める。

　幸せがほしかったのかい。青い鳥は探せたかい。
　――いいえ、見つかりませんでした。かぼちゃを馬車に変えられる魔法使いでも青い鳥は作れませんでした。
　ならばは諦めるのかい。
　――いいえ、私は見つけたいのです。


　くたりと眠そうな眼を映すのは水面の鏡。鏡面世界に写し込まれた自分に問いかける。
　水鳥のようにかくんかくんと揺らして、さぞ心地良さそうにしていた。そう見えた。
　こうしていることがきっと楽しくて、こうしていることが幸せで。
救いたがる指先は救いを与えんとして、求めんとして。

さぁ――私は……《私》は何を願いますか？

彼女の中で護身用と攻撃用はほぼイコールであるらしい。

トラウマらしい

　彼女の返答。
　それを聞き届け受け入れて、瞼を伏せてからそうして、
　ふと、笑みを漏らした。

「おれはおまえを拒まないよ」

　やわらかい声音。
　先程までの張り詰めたそれとは隔たる。
　ただ、確かに、

「何もしない。何も与えない。……お前が望むなら、お前の行動を、俺は何一つ、拒みはしない」

　確かに、



「そして俺は、お前に何一つを与えない」



　揺るがぬ頑固さだけ、彼女の胸に突きつける。