燈子を連れ、森を抜けて街へと向かう道すがら。
目は全周を忙しなく見回し、時折彼女の様子を伺いながらも、頭の奥では段々と鮮明になっていく認識を追体験していた。


背後から刺されるビジョン。
背骨の横から刃がずぶりと飲み込まれ、後ろに立ち息を荒げた男がそのまま押し倒し。
床面に血が広がるのをその背後から見下ろしている。

倒れているのが自分で、このまま死ぬのも自分。
これは死体が見ている夢に過ぎず、後悔が見せている何かだと、今の自分には認識できる。
これから彼が処刑されることも、彼が救おうとして自分が見捨てようとした彼女がどうなったかも今は想像できる。

2号という呼び名。生前は無かった、実験室に添えられた花束。
存在発展途上における心身由来の物理的現実改変能力。
それの源となる物理的実体を持たないエネルギを、他の存在から斬り取り己のそれに加算する。
ランニングコストは被験体の命で解消された。
その死体が、裸身のまま実験室に仰向けに転がされている。
眼は閉じ、意識は無く、それでも環境を取り巻く情報を吸い上げていた。

死体に新たな花束が添えられる。幾何学的な紐状に解け、吸い込まれて消えた。
死体に剣撃が加えられる。振るっているのは先に生前の死体を背後から刺した男。その背後には顔を薄く笑う道化のような仮面で覆った何者か。
これも剣が解け、吸い込まれて消えた。
剣を振るった男が振り向いた瞬間、仮面の者が男を蹴り倒す。
バランスを崩した男が死体に倒れ掛かり、甲高い音を立てながら解けて吸い込まれた。

呆然とするカリナをよそに、小さなドリ子はマイペースに語りだした。

要点をまとめると、以下のような状態らしい。

・エヴィ、プル、ドリ子本体は無事。
　単純に閉じ込められている状態。

・中に出口はなく、壁や天井どころか床すらない闇の中で浮かんでいるような状態。
　壁を壊すような対処は出来ない。

・プルに関しては現状無事だが日に日に弱っている。

見れば確かに、黒いエンブリオの表面には青い穴が空いていた。
しかしそれはとても小さい。普通の人間なら腕を入れるのがやっとだろう。

案山子の背後に黒い旗がはためく。