あなたは、と。
私の耳元に囁く声がある。





いくばくか私自身に似た、深緋の声。
わかっている。
これは半ばを超えて自問自答だった。

深緋は私と同化し、分かたれ、私を引き写す鏡になった。
私はその問いを知っている。

ただひたすらに恐れていたもの、逃げる場所も隠れるすべもない、自身に焼き付けられた罪のこと。
傷といえば、そうなのかもしれなかった。
だから答える。

許すことはできないかもしれない。
でも、囚われ続けることも、もうできない。
私は傷の大きさと深さを知り、それがすでに、そこにある傷でしかないことを知ってしまった。
もうずっと遠い昨日についたもの。

もしも瑕疵のないままに生きることができたなら、その先にあのひとはいなかった。
わたしは今もあの村で、誰か村の男と娶せられて村の女のひとりになっていた。

なら私は、私自身を少しだけ赦せる。

父に、村の人々に抱いたものが、何ひとつ褪せずに辛いままでも。
かあさんを失くした私を、今なお何より悔やんでいても。
そうした傷を抱えてここまで生きてきた自分を、ほんの少しだけ。

深緋。
鏡の向こうに、私のわずか過去として分かたれた私。
あなたには、あのひとがいない。
きっとただそれだけのこと。

何も消えはしない。消すことはできない。
過去は罪のしるしの如く焼き付けられ、罪は過去と同じく自分から分かつことができない。
それでもこの傷だらけの手に、なにかを得ることはできるのだと。

私は今、そう信じると、約束したから。

案山子の背後に黒い旗がはためく。