「シエミ、話がある。
本部の内紛だがね、もう完全に分裂状態にあって、どの派閥に付くとか言う話では無くなりつつあるらしい。連絡を取っていた本部の人間がそう漏らした。
……事実上、我々は戻る必要が無くなったようだ」

「……そうですか」
溜息を吐くシエミを見て、想像通りの反応だと私は思った。私としてはこんな組織の息が長い方が不自然には感じられるのだが、彼女は他の組織に居たことはないようだから無理もない。
「これからどうしましょうね。貴方は、どうするつもりです？」
「私はそうだな、残党の連中がこれからどうするのか、もし独立する者があるなら引き抜きをするだとか、そんな事を考えてはいるがまだまとまってはいない。
シエミに対しても同じことを考えている。だが、組織の縛りから逃れた今、私に強制力はないし君の判断に任せる。
モックにも同じように伝えるつもりだ。マルムベリィは……あれはもとより組織よりも私に懐いているから連れて行く」
「自由にしていいのなら、ここで暇をくれますか。　もう少しゆっくりこの世界を見て回りたいんです」
「構わないさ。……ああ、シエミはモックにもこの話をしてやってくれ。おそらく彼も同じことを言うだろうから」

ヴェルヴェットガーデンという組織は消える。シエミの所属したディヴィジョンについても同じことが言えるが、こういった組織は一定周期で破壊と再構築を繰り返す。大抵は中でも若い者が次を作って実質存続することが殆どだ。
元々研究者気質の彼女があの母体と似たようなところへ帰るつもりを見せないのは、自然な発想でもあるだろう。だが、いずれ彼女の成果が必要になる時が来る。早いか遅いかはまだ判らないが、必ずこの忌々しいエンブリオを引き剥がす時に。

大剣を放り出し、構えを取らない。