「シエミ、話がある。
本部の内紛だがね、もう完全に分裂状態にあって、
どの派閥に付くとか言う話では無くなりつつあるらしい。
連絡を取っていた本部の人間がそう漏らした。
……事実上、我々は戻る必要が無くなったようだ」
「……そうですか」

逃げ切ったことへの安堵か、かつては拠り所としていた組織への失望感か。私は大きく溜息をついた。
メルンテーゼのいざござも上手い具合に収束しつつある。我々はとにかくひとつの大きな軛から解放されたのだ。
私は晴れてヴェルヴェットガーデンの印章を外し、
……それからどうする？

「これからどうしましょうね。貴方は、どうするつもりです？」
「私はそうだな、残党の連中がこれからどうするのか、
もし独立する者があるなら引き抜きをするだとか、そんな事を考えてはいるがまだまとまってはいない。
シエミに対しても同じことを考えている。だが、組織の縛りから逃れた今、私に強制力はないし君の判断に任せる。
モックにも同じように伝えるつもりだ。マルムベリィは……あれはもとより組織よりも私に懐いているから連れて行く」

流石のバイタリティだと思った。私は少しだけ思案し、答えた。

「自由にしていいのなら、ここで暇をくれますか。もう少しゆっくりこの世界を見て回りたいんです」

メルンテーゼという世界は、わずか六十数日という早足で通り過ぎてしまうにはあまりに惜しいように思えた。
現状に不満があるというわけではないが、そろそろ自分の研究が恋しい。

「構わないさ。……ああ、シエミはモックにもこの話をしてやってくれ。おそらく彼も同じことを言うだろうから」

モックか。あいつはどうするのだろうな。
ベロニカと名乗るアニマは、モックとの生命の結びつきという形でFRENZMAを制した。
メルンテーゼにいる限り、あいつは上手くやっていきそうな気がする。
観察者としてのモックとの関わりは終わるのかも知れない。
……で、どうする。伴に行く理由。ない。別れる理由。思いつかない。
私はどうしたい？あいつはどうしたいんだ？
ブリギットを象るカルスは役に立ってくれそうにもない。

それにしてもエンブリオは未知だ。こんな戦争ごときに使われるのは愚かしく思えて仕方がない。
全てが終わったら、最初はどこに向かおうか。