光の内に、かつてのことを思った。

支障のなかった頃の眼。 視界。
美しく長い黄昏を飽かず見ていた日々。
この眼が過ごしてきた時間と、過ぎ去っていった光景。

まだ、この胸を揺らすひとのことを、知らなかった頃。

知り合ってさほど日が経つわけではなかった。 いくつか交わす言葉のほかに、共にいられるわけでもない。
それなのに、出会う前の日のことが、もうひどく、遠いことのように思える。

遡る記憶の果てにそのひとはいない。
いない日々へと立ち還る。

寂しかった。 そうと思ったことはなかったけれど。
つらかった。 そうと思ったことはなかったけれど。
悲しかった。 そうと思ったことはなかったけれど。

思いを言葉にしないことで、なにもかもから目を背けていた。
私はようやく、それを知った。
知ることの痛みを、ようやく受け入れられると思った。
痛み、引き裂かれ押し潰されるような痛み、ただ飲み込むしかなかったそれらを。

私の眼は、十全な機能を持っていた。
けれど私はそれに、自ら紗幕をかけて目隠しをしていた。
あまりにも長く、自分に結んだ目隠しのことを忘れてしまうほど。

そうして私の眼は、一度は損なわれた。
霞のかかる視界さえをもいつかは失うことを思った。
けれどその霞の中に、初めて、手を伸ばしたいものを見つけて。

目を閉じる。
開く。
窓辺から差す光を受け止める。

これからどうする、と尋ねる声に、迷いながらも視線を上げる。
目隠しをほどいて。