片目の者の輪に居る最中は、片目の振りをしろ。
　
　ここは、目に悪い風景だ。
　視界を覆う限りのネクターと、巧妙なまでに地脈の流れが操作されている、ような。
　眼は元々頼れないにせよ、五感全てが少しずつ狂わされている感覚だ。
　秒針だけ僅かに早められた時計のように。

　おかげで何度かはぐれかけたが、RJ殿が元気に叫ぶお陰で迷わずには済んだようだ。
　この有り様でこの先たどり着けるか不安になってくるのも仕方のない話だろう。
　一歩間違えれば永久に彷徨う羽目になるんだろうか？

　いや、ここから真っ直ぐ進めばなんとかなるはず。
　はずなんだが……。
　
　そういえば久々にストゥーラを転がしてみたけど。
　また悪い兆候に視えるのは私の気のせいだろうか。
　少し考えてみることにする。
　

ナスルが苦笑すると、緊張がほぐれたように、
こちらも口元に力なく笑いを浮かべる。

ブルーノは口いっぱいに広がる虫の味を想像して幸福感を得たのか、
言葉を言い終えると、口の端を耳元まで割くよう、ニィと笑った。

ナスルに視線を向けられると、軽く頷いて応える。

ブルーノは自嘲するように、
ナスルに尻尾を掴まれたまま腕を組んで笑う。

あまり謝罪を重ねるのも良くないと思ったのか、
短くそう告げると、頭を下げた。

　自らを落ち着かせるようにナスルが腕輪を撫でると、
　心やすまるような閃きが一瞬腕輪に宿った。
　

　拳を握り地を踏みしめ、ナスルは眼前の敵を睨めつけた。