一度騙されるよりは、千回考えを改めてみよ。

　城内を迷っている内に新王出現の報せを耳にしてから、ずっと胸がざわついている。
　それだけじゃない、この世界に仕置をするという魔神の言葉も引っかかっている。
　しかしもう脅威を避けている暇はなく、あの道を突き進む他ないだろう。
　
　大丈夫と幾度と無く人や自分に言い聞かせてきたけど、
　遠くに鳴り響く雷のように恐怖が私を僅かに掻き立てる。
　あの中を私は往くのだ。

　私の炎が隣人を害なすなら、徹底的に自分を支配するしかない。
　いつかその人に見合う自分になるために。
　致命的な痛みはそう何度も知る必要はない。

　私が今やるべきことは、息をし絶え間なく走ることだ。
　死に行く訳じゃない。生きるために。

　
　 4D12 = 23 ( 11 9 1 2 ) 4D2 = 6 ( 1 1 2 2 )

　芝居がかった礼に片目を閉じて笑って見せた。

　勉強と感じないものから読めばいいとさり気なくアドバイスしつつ。

　暖かい黄色の背景にカラスと葡萄が描かれた本。
　白い背景にツノを生やした肌の赤い人物が描かれた本。
　青っぽい表紙に大きなシルエットが二つ描かれた本。
　アラトはそれぞれを虚空から取り出してナスルの前に翳してみせた。

　一度振り上げた拳を引っ込めるのは大変な労力が要るのよと嘆息する。

　食通だけに食材への感謝も重いようだ。

　素直に賞賛の眼差しを向けている。

　ゆらん、ゆらんと尻尾が揺れている。

　件のアラトといえば、コノエとナスルのやり取りに面映そうなふくれっ面のような微妙な表情をしている。
　人らしく人の道を心得てはいるが善良というほど真っ白でも綺麗でもない。良くも悪くも人らしい顔だ。

　両手でくるんだカエルを淡い光の泡で包み、虚空へと仕舞いこんだ。
　終始ほほえみのままである。

炎の流法指南を請うた直後、炎水の複合技を提案され
雪光は再び困惑の表情を浮かべた

冷気を辺りに漂わせながらゆらゆらと舞う氷の蝶
優雅に現れたかと思えば随分と俗っぽい事を抜かす一角獣
目を瞬かせながら、それらに視線を往復し

ようやくナスルから意図を聞かされ
「はい？」と小さく漏らしてから、みるみる血の気が引いていく。

極道の家の生まれなれど、雪光は一般教養を叩き込まれている。
なので"その"知識はあった。

　　　　　　　　　　　爆　　　　　　　　　　　音

・
・
・

こちらへ近づいてくる赤黒い男に気付くと、
ブルーノは目を瞬き、首を傾げた。

勝手につらつらと独り言のように話す男性に困惑し、
眉を顰める。そもそもこの男性は誰なんだ、と記憶を辿るが、
この人物に迷惑をかけられた覚えはまるでない。

こちらの世界に来てから、様々な人物と接触したが……

去って行く男の背中にそう言葉を投げかけると、
目元を細め、見送った。

難しいお年ごろのようです。

妖狐からのダメ出しが出てしまった！

ぽふぽふ撫でられると、喜び駆けまわるわんこのように三尾をぶんぶこ振りたくって喜んでいる！！

そう言いながら、フカフカしっぽや耳を撫でられている。…さほど触った経験が無くとも、フッカリと沈み込み、モッチリと手応えを返し、プワンっと柔らかい…そしてとても暖かい陽姫の毛皮が売り物で言えば、最高級質…ともすれば、更に上を行くもののように感じる。

ナスルの逞しい足にちらりと視線を送る。

毎日収穫祭があればいいのに、とはしゃぐナスルに一言。

それでも、複数人がかりで相対しないといけない相手だったのはわかった。

無事で何より、と付け加えてナスルの頭を軽く小突いた。


***

潰れたナスルをじーっと見ていたが、起き上がったのを見て溜め息を吐く。
卵を受け取ると、予想以上の重さによろけた。
持ち直すと、丁寧に抱いて ナスルに笑いかけた。

ナスルに向かって吐きだされた炎は、3つとも掌にあたる寸前で消えた。

クツクツと低く笑う声が頭の中に響く。

語尾が小さくなるにつれて、徐々に目線が左下へと落ちていく。

かなり意地悪い笑みを浮かべながらとても楽しそうにそういう。

　ナスルは乾いた音を立てながら、チョコを貪っている。
　

　――咥えた葉巻に灯る蛍火が明滅する。
　

　目元を絞り口元を結び、ナスルは相手を見据える。
　口角がわずかにつり上がった。
　

　ナスルは言葉なく拳を払い――倒れた戦乙女を一瞥し、まとう布を翻す。