――いつかの話―――

おぬしは確か、自分の年齢を覚えていないのじゃったよな。
覚えていないというか、数える習慣がないのか。

確か、年齢を知られると、自分の守護星や守護星座を知られてしまうから、じゃったか。
呪術師であるお主の両親らしいの。
名前は偽名ではないのじゃな。
まぁ、その苗字、相当に力を感じるから、その苗字が守ってくれているのじゃろう。

ノナウムス、か。

お主の先祖に感謝するのじゃな。

名前のことは置いておくのじゃ。
お主の年齢のことじゃ。

お主は人間だから、おそらく100も生きればいいほうじゃろう。
普通ならば。

だが、おそらくお主の寿命は伸びておる。
正確に言えば、お主に流れる時間は遅く、引き伸ばされておる。

精霊の森、妖怪の庵、魔界、天界、神界。
古来より、こういった場所に紛れ込んだ人間は、元の世界に戻った時、世界が自分を置き去りにして随分先に進んでしまっている、という経験をする。
人間界と異界では時間の流れが違うのじゃ。

時間の流れなど意味しないところもあるしの。

お主もその影響を受けておる。
おぬし、どれだけわらわと長い間一緒にいたと思っているのじゃ。
わらわといない間は、精霊やらエンブリオやらといっしょにいたようじゃしな！
そりゃ影響も受けるってものなのじゃ。

人間界にいながら、精霊界に片足を踏み入れているようなものじゃ。
お主自身は気づいておらんかったかもしれんがの。

少し照れくさそうにしている。

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。