(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回自体続きなのでそれ以前の日記の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

「さて、特に変わりはなし。
　やる事は特に何もなし、か。
　情勢が大きく動かない限り、
　４、５日は暇とかいってたが、
　本当にここまで暇とは思わなかったな。
　ま、その間細かい依頼を色々受けてたから問題ないが。
　――全く、どこまであの嬢ちゃんは見越しているのかね。
　あの薬を手に入れて、
　あの商人が極秘裏に調査して結果待ちだそうだが。
　恐らくは彼女の言ったとおりになる。
　まぁ、流石にもう暫くやる事ないから、
　適当に依頼こなしといてといわれた時は唖然としたが。
　……護衛の依頼を受けて、
　他の依頼をやってくるよう指示されたのは初めてだ。
　普通なら警戒心がないとか、
　なんの為の護衛だとか、
　説教したくなるが……
　どう考えても、
　警戒心がない訳でも、
　世間知らずや無頓着でもなく、
　完全に計画立ててやってる辺りがなぁ。。。
　はあ。
　早く結果が出ないかね。
　そこから先はまた忙しくなるらしいし、
　流石に細かい依頼だけでは物足りなくなってきたんだが……
　大きな餌を吊り下げられてなければ、
　こんなもんかですんでたんだろうが……」
はぁ、とため息を一つついて、
昼食のサンドイッチを齧る。
最早、
戦いの中に身をおきたいという欲求が、
ここまで強いとは、
自分がとことんまでそういう人種なのだと痛感させられる。
別に悪くはないし、
嬉しい事だが、
こうして一人愚痴りたくなるほど、
自制が効かないとは、
まだまだ自分も未熟だなと考えさせられてしまう。
まぁ、まだまだ若いと考えればいいんだろうが、
こういう時は身体を動かすに限る。
さっさと昼食を終わらせて、
何か依頼でも見繕うかと思っていると――
「湿気た面しているわね。
　御馳走を目の前にしても、
　待つしかないのが苦痛だったのかしら？
　――まぁ、いいわ。
　用意が終わったみたいよ。
　色々四苦八苦してたみたいだけど、
　お陰で次に進めるわ。
　それじゃ、
　ついてきて。
　話は向こうの話と私の交渉が終わってからよ。」
待ち人がやってきた。
何気ない動作で、
俺の正面に座ってニヤニヤ俺の食べる姿を見ながら。
……
絶対嬢ちゃん俺の独り言全部聞いてたろ。
それを突っ込むと、
気付かないのが悪いといわれそうだからいわないが、
正直彼女は、
他人をからかう時、
無駄に普段より全ての物事を上手くやりとげる。
かといって、
いくら少し油断していたとはいえ、
俺の察知能力を完全に掻い潜るとまでは思わなかったが。
……嬢ちゃんが暗殺者だったら、
普通に大体の相手殺せるんじゃないか、
とか思ったが、
隠密無くても大差ないような気もするので、
気にしない事にしておく。
それより、
こう無駄な事を考えて、
待たせたりすると大変そうだと、
すぐに思考を切り替え、
さっさと残りのサンドイッチを口に詰め込み、
水で流し込み代金を机に置いて立ち上がる。
「分かってる。
　今食べ終わった。
　行こうか。」
「そうそう。
　私の依頼の方をしっかりこなしてもらわないと困るわ。
　私のナイトさんとでも付け加えたほうがいいかしら。」
「やめてくれ。
　騎士とかガラじゃない。」
「そ、残念。
　じゃ、行くわよ。」
サラリと彼女の発言をかわすと、
手の中からすり抜けるように背を向けて歩き出す。
掴み所が無い上に、
掴ませるつもりがないあたり、
可愛くない女ではあるが、
悪くない女だと思う。
――問題は、
彼女の性格にはついていける気が全くしない事だが、
まぁ、最初から分かりきった事だし、
嬢ちゃん自体改めるつもりがないから、
別にいいんだが、
恋人になった奴は大変だろうなと思う。
それとも、
恋人相手だと、普通に甘えたりするんだろうか。
そんな姿全く想像もつかないのだが。
……
やべぇ、
何か怖くなってきたから考えるのはやめよう。
そんな事より変な事に考えめぐらせている事気取られないように、
大人しくついていこう。
「……足音が乱れてるけど、
　何か変な事考えた？」
「か、考えてねぇよ。」
――気取られてた。

ともあれ、俺達はかねてよりの約束していた商人会う為に、
奴の泊まっている宿へと到着した。
そのまま泊まっている部屋まで一直線で俺達は移動し、
ドアをノックすると、
「どうぞ。鍵はあけてますよ。
　入ったら閉めてくださいね。」
と返ってきたので、
遠慮なく部屋へ踏み入れる魅月に続いて部屋の中へと入り、
施錠する。
ちなみに俺は基本入り口で何かあった時の為に突っ立っているだけだ。
話すのは商人と嬢ちゃんの二人だけ。
それでも部屋の中にいて話を聞くことになるのは……
そうしないと後で大変な目に合わされるのが、
何か予感できたからだ。
「さて、と。
　このまま、というのも少し怖いわね。
　対策くらいしてくれているんでしょう？」
「勿論、少しお待ち下さい……
　はい、これでいいですよ。」
入ってそうそう、対策を、
というのは話が話だけに
もし外に漏れたらまずいというもの。
その為に、玉を取り出して魔法を起動させたようだが……
あれ、たしか一定の空間の音を外部にもらさない魔導具だよな。
結構な額したと思うんだが……
態々この為に用意していたのか？
そういぶかしむ俺を他所に、
「あら、用意がいいわね。
　いつも持ち歩いてたりするのかしら。」
「ええ。まぁ……
　基本は行商人ですが、
　偉い人との親交もこれでもありましてね。
　その為にやはり密談は必要になりますから。
　この国に来たのも、
　この国のお偉い様方に親交を作りたいと思ってきたのですが、
　いやぁ、
　私が貴女達のことをリークしないと思っていたのですか？
　リークすればローリスクでハイリターンが出来るのですが。」
「ええ。しないと思っているわよ？
　確かにローリスクハイリターンかもしれないわね。
　でも、それは幸福薬が正常なものであればでしょう？
　たとえリークして利益を出したとしても、
　幸福薬のことをしった貴方を放置するわけにはいかないし、
　間違いなく利用されるんじゃないかしら？
　正常でない相手との契約なんて、
　相手の都合で破棄されるのがオチよ。
　もし、リークするとしても、
　私達の事を伝えるような真似はせず、
　何か妙な輩が貴方の周りをかぎまわっている……
　それくらいに留めておいて、
　どっちつかずの蝙蝠を演じる。
　ローリターンだけど、ローリスク。
　私達が成功すれば、ハイリターン所ではない。
　商人の利として、
　私達にきっと力を貸してくれる人が、
　ないがしろにする訳はないわ。
　他国の人間なら尚更よねぇ、
　対岸の火事と笑っているのはいいけど、
　真偽が確かなら間違いなく飛び火するし、
　この国の国力が落ちたと笑ってもいられない、
　毒をはらんだ国に干渉するなんて危険な真似は侵したくないでしょう？」
にっこり笑顔で談笑する二人、
はいいんだが……
なんなんだあんたらのその威圧感。
ぶっちゃけ今まであったどんな敵よりも恐ろしいんだが。
というか、
話の内容を完全に理解した訳じゃないが、
物凄い物騒な会話をしているよな。
しかも、腹の底の探りあいしながら、
婉曲的に情報完全にさらけ出してるよな！？
間違いなくにっこり笑って会話する類ではない会話をにっこりとって。
腹の探り合いどころの話じゃねーぞ。これ。
「おっと。怖い怖い。
　確かにそうですね。
　確かに問題の薬も――危険な代物でしたしね。
　流石にこのようなものは扱えません。
　大金になって売れはするでしょう。
　これを利用すれば権威を奪う事もできるでしょう。
　しかし、これを扱うのは外道の行い。
　商売人たるもの、
　正道をしっかり歩みたいものですから流石に。
　これと比べれば、
　武器を売る死の商人の方が断然正道ですよ。」
「ほんとよね。
　だからこそ、私のいた所では、
　この薬の事を魔の薬、と呼んでいたわ。」
「ああ、確かにいい得て妙ですねぇ。
　全く、この薬を考えた人は一種の天才なのは確かですが。
　けど、まぁ、これの毒性や依存性を抜いた薬は、
　結構売れそうですね。
　今すぐにとはいきませんが、
　そのうち作りたいですけど、
　別に構いませんよね？」
「いいんじゃないかしら？
　これを参考にしたとはいえ、
　これは本来あるべきはずのない薬だしね。
　普通の栄養ドリンクとして売ればいいんじゃない？
　そうねぇ。アドバイスするなら、
　味の調整もするといいわ。
　毒性や依存性に当たる部分抜いたら不味いでしょ。」
「ああ。確かにそうかもしれませんね。
　良薬は口に苦しといいますし。
　別に薬を売り出す訳でもありませんしね。
　そうですね。
　要研究ですが、特許も今のうちにとれるよう手筈を整えますか。
　ま、探り合いはこのくらいにして、
　本音で語りましょうか。
　実際の所勝算はどうなのです？
　それと……治療法を知っていたら教えて欲しいのですが。」
「とりあえず、依存をどうにかしないといけないから、
　依存が抜けるまで手足縛って介護って辺りかしらね。
　解毒とかでなんとかなるかもしれないけど、
　一応ね。様子見は必要よ。
　毒と認識されない可能性も高いから。
　飲まなければ病状の進行はないわ。
　で……勝算は十分よ。
　今夜にでも本拠地に乗り込んで、
　返す刀で息のかかった貴族達は私がどうにかするわ。
　その後、
　貴方の手引きで息のかかってない人間に、
　今回の全貌を話す。
　貴方のことだから伝手がなくても、
　伝手を無理矢理作って後ろ盾になるくらいできるでしょ。」
「分かりました。
　こちらもその覚悟をもって用意をしておきますよ。
　しかし、おいしい所取りで悪いですね？」
「あら、その代わり今後も私を贔屓にして欲しいわ？
　それくらいいいでしょ？」
「ええ。仕方ありませんね。
　それでは御武運を。」
両手をがっちり握手する二人。
……もうやだこの人達。
なんというか、物凄く黒い会話だったというしかない。
しかも、笑顔が一切崩れないとかどういうことなんだ。
本当に。
だが、ま、いよいよ今夜決行か。
腕が鳴るな。
いよいよ、本番という訳だ。
俺が死ぬか、
相手が倒れるか。
……果たして俺が求めるものは、
この向こう側にあるのか。
自分で選んだ道に後悔はない。
覚悟を決めて立ち向かおう。

しっかりと握手を交わす。
全くもってこの人との会話はやり辛い。
だけど、それが実に楽しくて面白いから飽きない。
仕事以上の関係にはなれないが、
お互い仕事に関してだけいえば最高のパートナーだと思っている。
利害が一致している限りは、だが。
まぁ、お互いの利害が一致しない場合は、
敵なら味方に引き込み、
関係ないくらいなら多少対価を頂けば利用しあうくらいだろうか。
正直な話、向こうにとってもね
私と明確に敵対するという考えはないと思われる。
なぜならメリットが無いからである。
敵であるなら排除すればいいと考えるのは単純だけれど、
敵として排除した場合、
お互い相手にとって最悪の行為を躊躇無く行えるからだ。
「それにしても、貴方から御武運をなんていわれるとはね。」
「おや、運は大切ですよ。
　それに、あなたとの縁は出来るだけ繋いでおきたいのですよ。
　ほら、味方には基本的に優しいですから、
　何かあっても手助けしてくれるかもしれないじゃないですか。
　貴方は自分の扱い方を誰よりも知っている。
　言葉だけで国を傾けそうですしね。」
「あら、扇動者だとでもいいたいの？」
「どちらかというと黒幕がお似合いですよ？」
「うら若き乙女に向かってそれをいう？」
「おっと。失敬。
　こういう場合は傾国の美女が適切でしたね。」
「あら、ある意味そっちの方がもっと酷いかもしれないわね？
　ふふ、それじゃ失礼するわ。」
「いやはや、
　女性に向ける言葉とは難しいものですね。
　ええ、吉報を待っていますよ。」
だからこそ――
彼は裏切らない。
裏切ったとしても、
手は打ってある。
それくらい察知できないような相手ではない。
その手がなんであるかは分からないにせよ。
実に有意義で楽しい時間とはこういうのをいうのだろう。
まぁ、最も……
仕事が終わってしまえば、
お互い馬鹿をいいあって、
こういうギスギスした話にはならないだろうけど。
でも、はたして私を、女性を楽しめる話はもっているのかしら？
それを確かめるためにも早く終わらせないと。
全く、
どうしてこう次から次へと楽しみが増えるのかしら？
楽しくて仕方が無い。

暫し魅月の表情を眺めた後、無言でナイフに息を吹き掛けた。