エルフの里の最後の一人が、私の目の前でどしゃりと崩れ落ちる。
…かつての。ううん。今でもそう思っている、勇者一行の一人。大切な仲間。

グリフは、私の放った氷の槍を腹部に受け、鮮血を散らしながら呆然としていた。

　
辺りは、急に静かになった。
森の木々はざわざわと風に揺れ、月の光さえ届かない夜の森に音を満たす。
地面に刺さった幾本の矢と、夥しい数の死骸が、ほんの少し前まで起こっていた戦闘の激しさを物語る。
誘き出され、散会し、各個撃破をされつつあった魔物達は私の号令の下、徐々に集いつつある。
その中から、すっと小さな影が現れる。

「……魔王様、どうしますか。まだ、息があるようですが」

あの時、私へ色々な事を説明してくれた老魔物がおずおずと尋ねてきた。
魔物達も私の意を汲んで攻撃を停止してくれている。
もしも私がここで「グリフを助ける」といえば、彼等はそれに何の不平も不満もなく、従うだろう。

だけど


「……グリフ。あなたはどんな死に方をしたい？」

「……もう少し遠回しに聞けよ。相変わらず物騒だな」

答えは期待していなかったけど、意外にも穏やかな声が返ってきた。
ぶるりと震える体は、腹部に生えた氷の槍のせいか。それとも其処から流れ滴る血のせいかは判別がつかなかった。

「……よろしいので？　お仲間では…」

戸惑うように、老魔物が再確認をする。
私は視線をグリフに向けたまま、頷く。

「仲間よ。今までも、これからも」

…グリフが、困ったような顔をしながら目を逸らす。
けれどその口元が、僅かに緩んでいたのを、私はしっかり見ていた。

「でも、私は止まれないし。グリフもきっと、そうだから。
　どちらかが生きてる限り、きっとあなたは私を殺そうとする。
　…そうでしょう？」

「……エルフの誇りに賭けた誓いは、この世の何よりも重い」

悼むように俯き、厳かにさえ思える声でそう告げる。

「俺は、ヴィルムが死ぬその日まで、アイツを守り、愛し、その命を奪う者がいるのなら、地の果てまで追い続けてでも必ず殺すと誓った」

それから、顔を上げて。私を真っ直ぐに見据える。

「……ヴィルムを殺したからな、お前は」

「……そうね」

教会の本陣を落としたあの日。ヴィルムは、私の傍で息絶えた。

「私が、殺した」

「…………」

グリフはふう、と疲れ切った時のように深く溜息をつく。

「…悪かったな。悪党なんてガラじゃないだろうに」

「何の事かしらね？」

「……オマエ、本当に顔に出るよな」

苦笑するグリフに、私は何も返せなかった。
涙は流れていないと思うけど、今自分がどんな顔をしているのか、気にしていられる余裕なんて無い。

「…まあ、いいや。俺ももう動けないし。仇討ちはここで終わりだ。
……あーくそ。ヴィルムにする言い訳考えとかなきゃなぁ…」

「…………」

「…ああ、そうだ。殺し方……だっけか。仮にもエルフだからな。
　できればこのまま放っておいてくれ。
　…このまま、ここで森の一つになりたいんだ」

勤めて明るく言うグリフの近くに、あるものを召喚する。
――木の棺。
驚いたように眼を見開きながらずりずりと血の痕を残しながら体を引き摺り、棺の蓋を開けて。

「……あ、ああ…」

その中に納まっているものを見て、グリフは溜息を漏らした
上半身を棺の中へ入れ、中にあるものへ何かを囁く。

「一緒に、眠るといいわ。……さようなら、グリフ。今まで、ありがとう」

ヴィルムには告げられなかった別れの言葉を口にして、私は踵を返して、その場を後にした。
魔物達も戸惑ったようにしながらも、後に続く。

「――――――」

「………………」

小さな声が後ろから聞こえた気がしたが、振り向かず、森の出口を目指して歩き出した。
――ディラック。あなただけは、必ず……

そして曲が終われば笛を留める風も止み、落ちてくる笛を両の手で掴みしまう。

　ある意味では非常に魔王らしい行為とも言えるだろう。

　神の実験。かつてあった世界構造をそう聞くと、忌々し気に眉根を寄せた。

　一刻も早く実現させたい。そのための拳はとうの昔に準備万端なのだ。

悪い虫を追い払おうとしたら、逆に痛い目には合ったようだ。

　と、疑問を投げかけて。

　彼女の言い振りに、そんなことをぽつりと漏らした。

　ただ、そう呟いた。事実を確認するように。

　

　どこに行くんだこの話。

　問われれば、首を振って。

　なんだか妙な条件が出てきました。

　若干失礼な言い方になったような気もしますが、ようは誰でも大体出来るだろうことしかして無いらしいです。
心配されているベクトルとは違う方面の答えでしたが。

　これが参謀役やってるパーティが存在するらしい。

　なんだかえらそうに言いますが、わだかまりを分かっているかどうかは不明。

　抱きとめられてでろんとしてたところ、頭に手を置かれると態度が一変。

　抱きついたまま首を竦めて、威嚇威嚇。情けない姿勢ながら抗議の意を示しました。　

気付けば、常に誰かが近くにいてくれた気がする。
こうして1人、静かに侵攻をしているというのは随分と久しぶりだ。以前までは、1人が当たり前だったというのに。

ザッ、ザッ、ザッ…

竜と戦っている最中、瓦解して、敗走した。
二人は無事だろうか――などと、今更心配はしない。そんな軟弱な二人じゃない事は、よく知っている。

ザッ、ザッ、ザッ…

そうだ。それだけじゃない。この感覚は、前にも味わった事がある。
遠い昔。誰かが私に、離れていても自分達はずっと傍にいると。そう言って、もう会えなくなった誰かがいたような。

ガサッ…

思考を中断する。ぞろりと集う怪物の群れ。
それを、口端を吊り上げ見ながら。

誰に対してのものか。そう宣告すると、敵陣へと踊りこんだ。