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少女と出会ったのは奇しくも物言わぬ彼女との再会の時だった。
精霊の加護を色濃く受け、小さな村で周りに愛されて育った綺麗な赤毛を持つ少女。

村を襲った流行病から村全体を護る為、わずか9歳という若さで上位精霊である彼女と
契約し、最も負担のかかる降霊に加えて舞による祈祷で力を高めるという手練の精霊術師
でもしないような無謀な事を、文字通り三日三晩続けたのだという。

それは少女自身の素質とともに、彼女の力の分散能力の高さの証明でもあったのだが、
当然のことながら若齢の少女の体が耐えられる訳がなく、最後の一人が峠を越す頃に
少女が、そしてかばうように力を多く使ってきた彼女自身も倒れた。

村を救った英雄を見舞う人は連日後を絶えなかった。
しかし、次第に弱りゆく少女は目をさますことはなく、契約した炎精霊も彼女の体の
一部となって眠っている。本来であれば降霊を解除すれば少女が彼女に命を分け与える
必要がなくなるのだが、きっと少女の体はすでに限界が来ている。解除は忽ち死を意味する
のかもしれない。きっとそれを守る為に彼女は中に居続けているのだろう。


私は少女の笑顔を一度だけ見た。
倒れた直後はなんとか元気を振り絞って起きている時間があり、機を伺い話を聞いた時だ。
少女は死ぬかもしれないという状況で、後悔はしていないと優しく笑った。
そして、意識がなくなるだろう自分に変わって、道連で彼女が死なないように契約を遮断して
ほしいと頼まれた。きっと心からの笑顔を見たのはこの日が最初だった。


私は悩んだ。少女の意志と彼女の想いの間でゆらゆらと。
きっと少女の言い分が正しい。が、きっとその通り動けば彼女は決して私を許さないだろう。
その逆も然り。彼女も少女も死なせてしまえば今度は自分が自分を許せない。

少女も助かり、彼女も助かり、そして自分も後悔しない選択。
確証はないし前例もない。しかし理論上は可能であるはずの唯一の方法。


（まあ、散々バカにされてきたんだ。驚かせるようなバカをやってやるさ）








「って、言った方法が精霊契約とはねぇ…」


精霊王を前にして事後報告を行った時に、やはりバカにされた。
文字にすれば至って簡単なそれだが、事情が事情だけにやはり問題となった。

簡単な流れを言えばこうだ。

まず少女が言った通り、死にそうになった時に彼女との契約を切る。
これは少女との約束があったため何とかなった。

次は出てきた息絶え絶えの彼女と私が契約する。
これが今回馬鹿と言われた所以で、精霊が精霊と契約するのは前代未聞の大問題だ。
しかし、魔力を直接与えられ生命維持をするにはこれしか無いと思いやってみたら
これまた何とかなってしまった。

最後は私自身が少女と契約すること。
精霊を養っている精霊になってしまったゆえ、上位精霊とは言い難くなってしまったが
弱っている彼女にはちょうど良かったのかもしれない。そしてこれも大問題だったのだが


「衰弱し生死を彷徨い魘されている少女の横で、「頑張れ」「生きたいんだろ！」
　「お前ならやれる！」などと暑苦しく叫んだ挙句、生きたければこの手を掴めと言って
　契約の押し売りを行った…これはちょっとねぇ…」


悪魔の様な所業だ。と側近たちが喚くがどうとでも言えという感じだ。
全ては自分の思うように事が運んだのだから、そんな奴らにも、少女にも彼女にも言って
やりたい。


してやったぜ。





コロナ。彼女との思い出を夢で見た。
今彼女の心はアスタルテの中にある。

「ご飯作らないとな…」

今日もまた、元気になったエルの帰りを待ちながら、奇妙な運命を楽しむのだった。