『一億ページの辞書』に、何者かの思考が文字として刻まれる。
持ち主が意図してこの項を探り出さねば、目にできるのは、この魔法の術者たるアムフェイだけである。


一揆参戦0日目。

――とうとう呼び掛けに応じる者が現れた。
呪われた不死の身でありながら人と同じ営みの中を過ごす者だった。
幾つもの複製世界が重なり合った、奇妙な世界群の一つから呼び掛けに応じたそれは、
その身に受けた呪いを解き放ち、世界の一つを砕く寸前だった。

干渉している私の身にも、どれほどの影響があるか分からなかった。
物理的な消滅だけならば耐え切れるが、意味まで奪われてしまえば消滅と等しい。
一瞬の判断により強制的な契約とともに世界転移を行ったが、結局、肉体を失うこととなった。

死という法則を歪めるほどの呪いを受けたその者は、私の肉体の残滓から再構成された。
正確には、私の肉体を奪い、強制的に造り替えたのだ。
概念体にまで堕ちた私は、意思を繋ぎ止めるため、奪われた肉体に同化し、影を媒介に現実へ介入した。



一揆参戦2日目。

この頃の私は意思と意識は微弱にしか存在しなかった。
ネクターの力で少しずつ回復していたものの、言葉を紡ぐ事も、状況を打破すべく思考することもできずに居た。

しかし朧げに、自らの状態は把握できた。

忌々しいまでに生命の力に満ち溢れたエンブリオが、体内に広がっていった。
私の憑依が剥がされかねないため、宿主への影響を無視し死の概念で抵抗を行う。

その結果、宿主の呪いに触れてしまった。
呪いは生も死も受け付けず、憑依は強制的に引き剥がされることとなった。
依り代を失い影だけの存在になったが、ネクターを媒介することで活動に支障は見られなかった。


一揆参戦4日目。

ようやく実体を得ることが可能となるまで回復する。

体積はある程度の調節が可能であるが、質量は変えられぬ。
ネクターや生命力によって力を蓄えるほどに、質量は増大していくようだ。
しかし体積や質量を得たところで影は影なのだ。
宿主がこの世界から去った時、影である私は消滅するしかあるまい。
魔王エリエスヴィエラの復活を成就させるまで、そんな事はあってはならぬ。







一揆参戦14日目。

宿主が拠点として利用している、無限とも思える程の生命力を有した巨大な生命体（タンポポ荘というらしい）から、
これまで生命力を拝借し続けていた。
しかし、化身である人型（ポポロと呼ばれている）が倒れてしまったため、
負担を軽減するなどの理由により、宿主からタンポポ荘に入ることを禁じられてしまった。
ネクターの供給はこのところ途絶えており、このままでは魔王エリエスヴィエラの復活どころか、元の私の力の復元すら望めぬ。
何か、生命力を得る手段を考えねばならぬ。



一揆参戦15日目。

願ってもない好機が訪れた。
強大な生命力を保つアニマが、精神界で宿主から解約を言い渡された。
宿主の精神界を侵食し、アニマが精神界から逃れられぬよう巨大な檻を形成した。

アニマを覆い尽くすことで、その膨大な生命力を余さず吸い尽くすことができた。
アニマは生命力の塊であるため、意味を失い消滅した。
膨大な力を得た私であったが、更なる力を求め続ける。